勝利目前のところでミスから失点する。世界中で日々、これだけ多くの試合が行われていると何ら珍しいことではない。
ただ、そのシチュエーション次第で重みは異なってくる。何かが決まる場面であれば、間違いなく「悲劇」と表現される。
1993年のワールドカップ(W杯)アジア最終予選、日本代表がイラク代表に勝利すればW杯初出場が決まる場面で、ラストプレーで失点して2-2で引き分けた。あの「ドーハの悲劇」は最も顕著な例だ。
■クロスボールをクリアミス
「悲劇」とは表現しないまでも、新たに秋春制でシーズンが開幕したJリーグでさっそく「痛恨」の場面を目の当たりにした。
東京ヴェルディが初戦で川崎フロンターレに1-1で引き分けた。1-0で勝利は目前。アディショナルタイムの表示は6分、時計はもう後半51分に差しかかっていた。
東京Vからすれば、強豪の川崎F相手に初戦で勝ち点3を得たら今後へはずみがつく勝利だった。チームの誰もがその瞬間を信じて待ち構えた中、まさかのミスから同点とされた。
右サイドから入ったグラウンダーのクロスボール。クリアしようとしたMF平川怜(26)が振った右足にうまく当たらず、軸足を経由して後方の自陣ゴール前へと転がった。FWロマニッチにすかさず左足で流し込まれ、1-1の同点で試合は終了した。
ミスは誰にでも起こるものだ。だからこそ、こういう時に当事者はどう心を整え、次に向かおうとするのか? いわゆる「リバウンドメンタリティー」を知りたくなった。後日、当事者の平川に話を聞いた。
こちらの意図を伝えると、嫌がる様子もなく回答してくれた。
「起こったことは変えられないですし、起きてしまったような同じシーンはもう来ないと思うので再現性っていう意味では難しいですけど。それまでの自分の準備がどうだったかとか、そういう改善できるところは次の試合で起こらないようにっていう感じです。ミスが起きたシーンについてはもう切り替えています」
「切り替える」とよく言うが、その切り替えるプロセスは実際どういう作業となるのか?
「別にこれで何か終わったわけではないので、まだ取り返すチャンスというか、始まったばっかですし、90分間通して自分のプレーも含めてどうだったかっていうとこはいつもと変わらない。そこを冷静に振り返って次の試合に向かうって感じです。あのシーンについてはもうやってはいけないミスですけど、もう次の試合に向かってって感じです。そんなにネガティブにはなってない」
選手のキャリアや考え方によって捉え方は異なるのかもしれない。自分の仕事に置き換えて考えてみれば、その1つのミスに対し、さまざまな経験値から「事の大小」をジャッジするだろう。平川の言葉にも同様のものが見て取れた。
「そのレベル感によるのかもしれないです。もしこれがワールドカップとかだったら立ち直れないかもしれないけど、まだリーグ戦の1試合なので。普通に重みを感じてないわけではないですけど、そんなに落ち込まないですね。いい意味で」
■晒し者にしても意味はない
平川のキャリアをざっと紹介すれば、17歳だった時に1歳下の久保建英とともにプロ契約を結び、会見した「逸材」だった。U-17W杯を経験するなどアンダーカテゴリーの常連で、J1にも17歳215日でデビュー(当時のクラブ最年少記録)したほどだ。
ただ、その後は出場機会に恵まれず、J2鹿児島、松本、熊本でもプレー。地道にキャリアを積み重ね、J1磐田から25年に東京Vへ加入した。Jリーグ通算出場試合は198(J1~J3合計)を数え、その経験値は高い。
「自分はもう何試合も経験してきてて、いい試合もよくない試合も、それこそもっとプレッシャーかかる試合も経験してきているので、キャリアを積むにつれて段々と波は少なくなってきていると思います。ただ、その1試合に対して軽い気持ちでプレーしているとかまったくない。次の試合とかこの残りのシーズンに向けてどうプレーしていくかっていうところに向いています」
初戦はミスにより、取れた勝ち点を落とした。その時、スタッフや仲間はどういう対応だったのか?
「このチームではミスに対してそこまで責められることはなく、その前にどういう準備ができてたかっていう、そこに対しての反省というか、もっといいポジションが取れたよねっていう振り返りはチーム全体でもしています。オンザボールのところは、もう何が起こるかわからないのがサッカーだと思うんで、それ以外のところでいい準備するっていうところはヴェルディで求められています」
実際、城福浩監督は今回の件についてこう話した。
「ミスした当事者を晒し者にしたって何の意味もない。みんなが勝つために必死でやっている中で起きたことをどういうふうにチームとしてプラスに変えるか。我々に課された課題だと思っているので、そこはロジカルに共有しています」
むしろ、ここで取り返そうとするリバウンドメンタリティーが働くのだろう。平川がこう続けた。
「もちろん自分がやってしまったことなので、チームの勝利に貢献したい思いが強くなりましたし、今シーズンに向けてもっともっとやっていかないといけないなっていう気持ちにもなっていますね。自分の力で勝たせたいというか、そういう思いが強くなった試合でもあります」
プロサッカー選手の日常のマインドに触れられた思いがした。人は日々心の揺らぎとともに生きている。そこを無理にコントロールしようとするのでなく、少しずつ折り合いを付けながら気持ちを整えてる。そんな習慣づけが自らの引き出しとなり、安定感や幅につながっていく。
そう考えれば、ミスを悔やむよりミスからどう学ぶか。「失敗は成功の母」だとかみしめたい。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)







