ネット社会の現代にあって日々、SNSからさまざまな情報を得ている。現場で取材していても気づかない出来事は多々ある。
■8月7日のJリーグ開幕戦
例えば、8月7日に開幕したJリーグの開幕戦。鹿島アントラーズから横浜F・マリノスへ移籍したMF知念慶(31)が、敵チームとして戦った1歳下の鹿島FW鈴木優磨(30)から絡まれると、その体を押し返し、激しくやり合った。その映像が大きな話題となっていた。
試合後には知念が鈴木に詰め寄ろうとし、脇にいた同僚のクルークスが止めに入る姿も見えた。これは移籍という裏切り行為への愛憎なのか、もともと仲が悪かったのか、それとも…試合を盛り上げるための演出だったのか? さまざまな解釈が浮かんでくる。ただ動画を見る限り“ガチ感”は十分だった。
その真意は? 清水戦を控えた知念に、話を聞くことができた。
鹿島時代の2人の関係性はよく知らない。ただ、勝負の背景にある因縁や友情、そして成長というアングルのようなものを感じた。かつて長州力が「俺はお前のかませ犬じゃない!」と藤波辰爾に反旗を翻した姿が頭に浮かんだ。そこで「まるで昭和のプロレスを見るようでした」と伝えると、知念は破顔一笑した。
「ちょっとそこはご想像にお任せします。見ている人でいろんな想像をしてもらって、楽しんでもらえたらいいなと思います。あれがプロレスだったかどうかと言うのは正直、俺も分かっていません」
そう話す知念の目はギラついていた。その脳裏に、鈴木の顔を浮かべていたのかもしれない。
勝負に生きる選手や監督には“ゾーン”というものが存在する。知念、鈴木もまた同様にある。試合中はまるで別人格のように荒々しくなり、勝利に向かって妥協なく邁進する。つまり今回の“抗争”はゾーンに入った両者が、火花を散らし続けた末に沸点を超えたものだと考えている。
再び知念が口を開く。
「そのシーンについては、あいつ(鈴木)にも聞いてほしいですね。でもみんながその話題になって、サッカーに興味を持ってもらえたら、それはそれでいいことだと思いますし。何かそうやって楽しんでもらえたなら良かったんじゃないですか」
プライドと意地が交錯したゆえの、とがった男たちの感情表現の形。大逆転という試合展開も両者の燃え盛る魂に油を注いだ。狙っていたわけではなく、結果として最高のエンタメとなったようだ。
■「勝つために何をすべきか」
SNSで動画が注目された試合にあって、知念が見せたプレーはどれも凄みのあるものだった。
「ボールを刈る」とは、このぐらいの気迫とプレー強度が求めらられるものと示した。特に前半7分の先制点の場面は見逃せない。16歳の三井寺眞のデビュー戦ゴールばかりがフォーカスされたが、その起点となった知念のボール奪取は一級品だった。そこから素早く右ウイングの近藤友喜につなぎ、ライン際をえぐった巧みなドリブルから得点が生まれている。
ここ最近、低迷していた横浜にはなかったような魂あふれるプレーだ。知念は自らの基準というものを提示することで「勝つためには何をすべきか」とチームの意識をより高めている。
「(鹿島戦の)1点目と3点目のところは切り替えの部分、トランジションからチャンスを作れたっていうのは、今シーズン取り組んできたことがうまく出せた」
好感触を話した一方で、3-1のリードから終盤の3連続失点で敗れたことは今後の課題となった。
「サッカーは90分で完結するスポーツなので、60分や70分まで自分たちがいいゲームをしてても、最後の20分でああいうふうに持っていかれるのはチームの弱さだったなと思います」
そのキャリアは勝負に執着したものだ。4度のリーグ優勝を経験した。その川崎F、鹿島という常勝軍団のエッセンスを横浜に持ち込み、プロレス風に言うならば「改革軍」の旗手となろうとしている。
サッカーとは感情のスポーツだ。そのプレーに魂はこもっているのか? 1つ1つのプレーへの熱が、見る者の心に伝導していく。
秋春制のシーズン移行で新時代へ突入した日本サッカー界。プレーでファンを魅了することはもちろんだが、個性あふれる選手たちがそろっている。その相関性やストーリーも知れば、Jリーグはよりおもしろくなってくる。
そして次回の横浜対鹿島は来年4月3日。知念対鈴木の第2ラウンド、その結末が楽しみでならない。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)






