目をつむり、両手を広げてピョンピョンと5回ほど跳ぶ。キックオフ直前、東京ヴェルディMF斎藤功佑(29)が行っている「ルーティン(習慣)」だ。
■選手たちが行うルーティン
2015年にラグビーW杯で日本代表の優勝候補の南アフリカを破った。その時に五郎丸歩がキックのたびに前かがみになり、手を合わせて拝むようなポーズを披露していた。
スポーツ選手のルーティンが世間にも広く知られ、チームの活躍もあって大きな話題となった。真似するこどもたちの姿がテレビでも取り上げられていた。
五郎丸の場合、どんな状況でもキックに集中できるよう、メンタルコーチと一緒に作り上げた所作だった。そんなことを思い出していた。
その斎藤は10月21日、横浜F・マリノスとの国立決戦でも変わらず、試合前の“儀式”とともにキックオフのボールを蹴り出した。
その行動の狙いについて本人に聞いた。
「あれはパーソナルトレーナーの人にやった方がいいよって言われて。最初に目をつぶって跳んで、なんか(体の)重心を感じるというか、整えるみたいな感覚でやっていて。その後に目を開いてこの視野を確保しながら(体を)解くという、2つの意味合いで毎試合やることでルーティン化して、メンタルも落ち着いた状態で試合に入るという意図を持ってやっています」
かれこれ3、4年ほどになる。24年に東京VがJ1に昇格し、その主力としてチームの6位躍進に貢献した時も、そのルーティンは行っていた。パフォーマンスを上げるため、選手たちは個々でさまざまな細部へのこだわりを持ち、日々取り組んでいるのだ。
■目の刺激を入れてプレーに入る
とりわけ理論派の斎藤は、そこからまた踏み込んだ話へと展開してくれた。
「やっぱり目は大事なので、目の刺激を入れる人は多いっすね」
左右の手を上下に広げ、その上下を交互に見る動作を実演し、説明してくれた。
「なんかこうやって上と下をこうやってみたら、クリアに見えたりするんです。そういう目の刺激を入れてプレーに入る」
中盤のコントロールタワーとなる役回り。常に360度に敵と味方がいて、状況判断が求められる。だからこそ「観る」ことは、より大事なポジションとも言える。
「サッカーって瞬間・瞬間、時間がない中で判断しなきゃいけないじゃないですか。こうやってパッと見た時に情報の入り方が変わるんですよ、このクリアさが。今日はなんか目が動いてないなみたいな時だと、全然情報が入ってこなくてってなると、前が向けない。なんかボヤっとしているから、結局そこの情報がはっきりしていないから危険だなって判断しちゃう。自分は見えているはずで選択肢がいくつかあるはずなのに、的確に見えていないとボールを下げちゃう」
目から情報が入らないと、怖くて前を向けないのだという。となれば、プレーがどんどん消極的になり、ゴールに向かって仕掛けることもできなくなる。
■横浜FCで中村俊輔から学ぶ
横浜FCに在籍していた時、日本サッカー界のレジェンド中村俊輔と3年半を過ごした。そこが大きな学びとなった。
「俊さんの見えている世界が気になって聞いたことがあるんです。パッと前を向いた時に、俊さんは6通りくらい(選択肢を)持っていた。基本的に目の前のディフェンダー(DF)とは対峙(たいじ)していなくいて、最終ラインの選手と目が合うみたいなことを言ってました」
ビルドアップでボールを受けると、まず視界の前には当然、相手のボランチが入ってくる。そういう状況にあって、目の前を観るのでなく、その先に視線は向いているのだという。
■目の前でなくCBと駆け引き
「相手のボランチでなく、相手のセンターバック(CB)と駆け引きするみたいな。普通のインサイド、アウトサイド(を使ったパス)、浮き球なんかでも、相手のどこを通すかみたいな。1回こっち(CBの脇)に通すと相手は下がるから、味方がこっち(CBの手前)にいても行けないみたいな。人間が使える体の特性を理解した上で、パスの質、ボールの質を選ぶみたいなことを言ったんです。俺もなんとなくは分かるんです。例えばバックパスした時、自分たちのビルドアップでバックパスした時って、相手のDFがちょっと気を抜くんですよ。そのタイミングでワンタッチとかで裏に蹴ると、絶対にオフェンスの方が有利なので。なんか(相手が)フワっと前に寄せている時に、2列目から走ってくるみたいな。そういう仕組みを俊さんが使っていた」
それらのプレー判断の根底にあるのは、正確無比なボール技術。そこに自信があるからこそ、意識は周囲の状況へと向いていく。手を使ってプレーするバスケットボール選手のような意識を持って、足を使う不自由なサッカーという競技をやっているものだろう。
■「敵を知る」ことから始まる
同様に、理論派の指導者、風間八宏氏(南葛SC監督)は「敵を観る」という考えを説く。そこは敵の動き、重心まで観察する。例えば、どちらかの足に重心がかかっていれば、その重心がかかった側の脇はボールが通せるという、人間の体の仕組みを突いた発想だ。
斎藤もまた、相手の重心まで意識してプレーしている。
「裏に出したい時に、まっすぐ(体が)向いているとDFって切れそうだなって対応するじゃないですか。でもこっち(体が左右どちらか)に向いていたら、ちょっとサボるんですよ。ワンテンポ遅れるので、そういうのは意識しています。自分の体の向きを(意図的に)変えることによって、相手の重心を1回サボらせるみたいなことを考えたりします」
■人はサボる、だからスキを突く
つまり、人間の認知構造を突いた行動を取るということ。よく言う「意表を突く」プレーである。
「もう見なくてもいいというか、人ってこうなるとサボるよねっていう。味方はそれを分かっているからもう加速しているので、絶対に出したらもう先にボールに触れるみたいなものはあります」
実際に21日の横浜戦の後半、ファウルで倒された直後、ボールを受けるとすぐさま相手背後へ蹴り入れる場面があった。DFが「サボる」タイミングを見逃さないプレーだった。そこは感覚的に出来上がっているからこそ「見ないで」スペースへ素早く送る。それが局面を打開する「あうん」のプレーへとつながっていく。
物事の一部分を見て全体像を見失う「木を見て森を見ず」という言葉があるが、森を見て木を見れば、より試合の細部までクリアに見えてくる。と同時に、あらためてサッカーとは知性のスポーツだと思う。さまざまな知見が積み上がり、近代サッカーの森は深くなっている。
緑生い茂る森に暮らす斎藤。その生きた言葉の数々に、次戦を見るのがより楽しみになった。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)





