「日本は少し楽な組に入った」。こう思う人が多いだろう。でも同じ組のメキシコは「上に行くのはオレらとフランス」と思うだろうし、フランスだって「ラッキーなグループだ。メキシコと我々だな」と思うはずよ。弱いと思われる南アフリカだって「初戦の日本に勝てばなんとかなる」と思うに違いない。冷静に考えると、メキシコ、フランスの2強に日本の1中、南アフリカの1弱ってところかな。

日本の強みは、ホームのアドバンテージと気候、生活面の慣れなどを挙げられるが、今回は必ずしも大きな後押しにはならないだろうな。まず観客を入れるかどうか。もし入れたとしても人数制限がある可能性が高く、相手へのプレッシャーにはならない。しかも応援は拍手だけになって、相手が客席を気にする場面はまったく演出できないと思った方がいい。

サッカー界で五輪は、W杯と違って各国がそれほど大きな予算を投じない。大会直前に現地入りチームがあるくらいだが、今回はコロナもあって2週間以上前の入国が義務づけられるだろう。2週間あれば、気候に慣れるのには十分だ。特にフランスは日本の暑さを苦手にするはずだが、早めに入って慣れちゃえば、気にならないだろうな。

あとは生活面。日本人選手は真面目で、選手村でも規律正しい生活を送るだろう。毎回、五輪が開かれる度に「大会組織委員会が選手村に用意したコンドームが足りなくなった」とのニュースが出る。サッカーは開催地がそれぞれ異なり、ほとんどのチームが選手村には入らない。元気な若者が、ストレス発散に走ることはあるだろうが、今回はコロナの脅威で、各国が外出を禁じ、自主隔離するはず。相手は今までより集中力を高めて試合に臨むだろうな。

最大の難題はオーバーエージ(OA)。どの国も3人を入れてくるだろう。メキシコは五輪を通じて自分を売り込む場との認識があるから、若手もOAもモチベーションが高い。同時期に欧州選手権があってもフランスには、A代表ギリギリの実力者は何人もいる。6月までは誰が入るか分からないし、わざと間違った情報を流してくることもある。

OAが入ると、それまで予選を戦ったチームとはまったく別のチームと思った方がいい。攻撃的な選手は必ず入れるはずで、その選手中心の戦術になるだろう。しかもコロナ禍で日本の偵察隊の動きにも制限がかかるはず。厳しい条件がいくつもそろう中、本当に日本はメダルが取れるだろうか。

その中で、ラッキーなことがある。大会日程だ。日本は初戦が最弱と思われる南アフリカで、同じ日にメキシコとフランスがつぶし合う。初戦さえ勝ってしまえば、中2日のスケジュールは日本に有利に働くだろう。最終戦がフランスとなったのもいい。暑さになれても連戦はきついだろうな。

短期決戦は、勢いに乗ったチームが突っ走ることが多々ある。決勝トーナメントに上がったら、今回は韓国か、ホンジュラスになるだろうな。いずれも勝てない相手ではない。初戦で勢いを付けて波に乗っちゃえば、メダルだってあり得るよ。その道は、いばらの道かもしれないけれど、日本代表も楽にメダルを取ろうとは思わないだろうね。抽選会が終わって、東京五輪への興味が徐々に湧いてきたね。(日刊スポーツ評論家)