J1は川崎フロンターレの2連覇で決着した。セレッソ大阪に1-2と敗戦でのV決定。その裏で、唯一可能性を残していたサンフレッチェ広島がベガルタ仙台に敗れたからだ。

今季、開幕から主役を担い、走ってきたのが広島だった。最後は残念な結果となったが、残留争いで苦しんだ昨季からの大躍進は拍手もの。見事な「変わり身」を果たした要因に、今季から就任した城福浩監督(57)の信念が大きくかかわったように思う。

5月に練習場で話を聞く機会があり、チーム作りについて突っ込んで聞いた。シンプルなようで新鮮にも感じたので、取材ノートから掘り返したい。

城福監督が昨年、他にもオファーがあった中、広島に決めたのが12月中旬。「自分たちがまず、与えられた時間で何ができるか」を考えたという。

「違う仕事に追われていた中でも、1節から広島の試合を見ることから始めた。どのように苦しんだのか、自分なりに踏まえる必要があった」。その発想も独特で、リーグ戦開幕ではなくシーズン初戦、プレシーズンマッチから逆算して計画をたてた。チームに合流してからは選手と面談。「このチームに落とし込まなければいけない、優先順位をつけた。分かりやすい伝え方でディスカッションが大事。押しつけはしない。戦いながら成長していくものだから」。

戦術の話では「“攻撃的”はどの監督もやりたいはず。しかし実際の試合は別問題。結果を得ながら、攻撃(の形)は積み重ねていく。1年の時間をかけて、牛歩のごとく進むのが攻撃。でも、守備は(試合が)崩壊しない」。前節までの31失点はリーグ3位。「堅守」からの立て直しは、開幕からの快進撃で正解を証明している。

「他力で(J1に)残った。それだけ苦しい思いをなぜ味わったのか。選手それぞれが理解しないといけない」とも話していた。今季も違う意味での悔しさがあるはず。9月1日に鹿島アントラーズに勝ってから、7戦連続勝ちなしで5連敗中。この苦しみも、さらに高みを目指す糧にするしかない。優勝に足りなかったものを埋めるため「牛歩のごとく」広島は歩みを進めるはずだ。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆実藤健一(さねふじ・けんいち) 1968年(昭43)3月6日、長崎市生まれ。若貴ブームの相撲、ボクシングでは辰吉、徳山、亀田3兄弟らを担当し、星野阪神でも03年優勝を担当。その後いろいろをへて昨春からスポーツ記者復帰。いきなりC大阪が2冠と自称「もってる男」。