スペイン1部バルセロナのアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ(32)が秘める「ムハマド・アリ愛」は、実に味わい深いものだった。

既にチーム練習に参加しているメッシは、新型コロナウイルスの影響で自宅待機していた3月、YouTubeやツイッターでサッカー有名人のコンテンツを配信する「OTRO」を通じ、プライベートジムを公開した。自主トレに取り組む動画の中には、ボクシング元世界ヘビー級王者アリ氏のモノクロ写真が15枚ほど飾られている壁面が映り込んでいた。

以前からメッシが熱狂的なアリ崇拝者であることは知られていたが、反響は大きかった。特に英紙サンは、飾られたアリの写真10枚に注目し「メッシのジムはアリ伝説の神社」と特集。確かに、それぞれの写真にこだわりがあるようだ。最上段左に「スリラー・イン・マニラ」と呼ばれた75年10月、フィリピンでのジョー・フレージャーとの第3戦で右ストレートを放つアリの写真が設置。2万7000人が集まり、会場内が気温49度まで上昇する中、14回終了TKO勝ちした熱戦だった。

真横には71年3月のフレージャーとの第2戦でパンチをかわすショットが並ぶ。15回判定負けを喫したが、米老舗専門誌ザ・リングの年間最高試合に選出された試合だ。最上段右端に65年のソニー・リストンとの2戦目で2回KO勝ちし、キャンバスに倒れるリストンを見下す有名なショットがあった。勝っても、負けても「魅せる」。アリ氏からイメージを受け取っているのだろうと想像できる。

2段目左端には最盛期とも言える一戦、66年11月、クリーブランド・ウィリアムズから4度のダウンを奪って3回TKO勝ちした場面。その横には、大勢の報道陣が見守る中で公開練習、さらにシカゴにスタジオにたたずむアリ氏の写真が並ぶ。最下段にはビートルズが練習訪問した際の写真が2枚もある。ボクシング界の領域を超え、世界全体に影響を与えていたことを示す写真でもある。一連の写真を通じ、メッシは自らの姿と重ね合わせているのだろうと推測する。

アリ氏にフレージャーやジョージ・フォアマンといった好敵手がいたように、メッシにはポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド(35)というライバルが存在する点も似ている。アリ伝説の数々に見守られながらインスピレーションを感じ、自らを奮い立たせているに違いない。

スペインリーグは6月8日から無観客で再開できる見通し。メッシには自宅謹慎で蓄積した鬱憤(うっぷん)もあるだろう。16年にアリ氏が74歳で他界した際、自らのSNSで「チョウのように舞い、蜂のように刺す」と同氏の名言を投稿している。今季再開後、ピッチ上でチョウのように舞うドリブルや、蜂のように刺すゴールが見られるかもしれない。メッシが「ザ・グレーテスト」(アリ氏の愛称)な姿をみせてくれるのではないかと期待している。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「現場発」)

◆藤中栄二(ふじなか・えいじ)1970年(昭45)9月3日、長野・上田市生まれ。93年に入社し、サッカー、五輪、バトル、ゴルフなどを担当。20年1月から3度目のサッカー担当復帰。