練習に参加する奈良クラブの林監督(撮影・南谷竜則)
練習に参加する奈良クラブの林監督(撮影・南谷竜則)

JFLの奈良クラブに25歳の指揮官がいる。林舞輝(まいき)監督。欧州でコーチングを学び、23歳で同クラブのゼネラルマネジャー(GM)に就任。プロ未経験ながら今季からチームを率いている。4日、練習場の奈良フットボールセンターを訪ねると、朝から降り出した雨にも負けず、大声を張り上げる姿があった。「雨なんて何でもないですよ」。ぬれた髪も気にせずに語った。

25歳の指揮官、その方針は「チームミーティングをしない」こと。戦術の理解は日々の練習のなかで落とし込んでいくため、不要という考えからだ。コーチ陣との話し合いでは、監督の意見に同意するのではなく、反論するように求めている。年上の選手もいるが、ピッチの上では呼び捨て。若くしてチームを率いているものの、MF菅野哲也(31)は「サッカーオタクと言っても過言ではない。選手のことだったり、サッカーについては詳しい。選手も吸収しようとしているのでいい感じです」と敬意を払っている。

東京出身で競技は小1のときに学校のチームで本格的に始めた。もともと、読売クラブのユースにいた父と大学でプレーしていた母の影響もあり、サッカーは身近な存在だった。転機が訪れたのは高2。母校の小学校のコーチを頼まれた。

「僕は選手としては普通だった。(高校のチームは)一生懸命やんないし、プレーしててもしょうがないなと。『じゃあ指導者やってよ』って言われてやり始めた感じ」

こう、きっかけを語った。

大学はイギリスのグリニッジ大学スポーツ科学部。留学の仲介業者を通さず自ら大学に連絡した。首席で卒業し、17年からはポルトガルのポルト大学の大学院で学んだ。在学時には、同国1部ボアビスタのBチーム(U22)で相手チームの分析を担当。「毎週分析のリポートを提出をしないといけないし、大学の試験も毎週末あるし、大変でした」と当時を振り返って笑った。

プレミアリーグ・トッテナムの現監督ジョゼ・モウリーニョ(57)が講師を務めるエリート監督養成コースにも通い、指揮官としての技術を磨いた。

一見冷静に見えるが、サッカーには熱い情熱を注ぐ。試合では怒ることもしばしば。8月末のホンダロック戦では3-0で勝利も「残り10分から怒りました。勝ってるからって油断して。『リモートで見てる人がいるんだから、一生懸命やれ』って、気持ちの部分しか言ってなかった」と明かした。

一方、私生活はピッチ上の厳しい顔とはちょっと違う。苦手な物は飛行機。遠征で使う場合は、離着陸や機体が揺れたときに隣に座っているコーチにしがみつく。コーチ陣は、誰が隣に座るか毎回じゃんけんで決めているという。クラブ関係者は「オン、オフがしっかりしている。サッカー以外はかわいい25歳です」と語った。

クラブの目標はJ3への昇格。だが、若き指揮官は「僕らの目標は次の試合で勝つことだけなんで。それ以外考えてないです。監督になったとき『今年の目標は次の試合に勝つ』と言いました」と語った。【南谷竜則】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

奈良クラブの林監督(撮影・南谷竜則)
奈良クラブの林監督(撮影・南谷竜則)