「~君」、「~ちゃん」。あるいは「~さん」、「~先輩」。サッカー経験者ならば、前者の方がしっくり来るのではないだろうか。年長者への呼び方だ。私自身もサッカーをかじっていた身として、昔から先輩に対して「~君」、「~ちゃん」が日常だった。自身だけでなく、周りもそれが当たり前だった気がする。

「ピッチ上に立てば、年齢なんて関係ない」。

そんな言葉を聞いた覚えもある。試合中。スペースを見つけ、走りだす-。逆サイドがフリーの状態で、ボールを呼び込む-。「~さん」、「~先輩」とは呼ばなかった。周りも含めて「~君」、「~ちゃん」。年長者に対して、要求していた。それはピッチを離れても。学校生活でも、そんな“風習”は身についていた気がする。

浦和の「しんちゃん」の場合は少し違ったようだ。先日、浦和MF阿部勇樹(39)、FW興梠慎三(34)、GK西川周作(34)、DF槙野智章(33)が、23日に公開される劇場版最新作「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」のコラボイベントにオンライン上で登場した。

映画の内容にちなみ「青春」について盛り上がる中、4人の中で唯一、高校サッカー出身の興梠は「ユースの子たちは、先輩に『~君』とか言うけど、俺らだったら考えられなかった。そんなことしたら、恐ろしい…」と“ほろ苦い”青春時代を懐かしみ、笑った。もちろん、試合中となれば状況は別だろうが。広島の下部組織出身の槙野は「たしかに『~君』、『~ちゃん』とかだね」と返答した。

野球界では上下関係は絶対。年長者には「~さん」が当たり前。プロ野球でも、後から入団した選手が年上であれば、呼び方は決まって「~さん」。サッカー界の独特な習わしなのかなと思う。

私自身、ユース出身でもなければ、興梠(宮崎・鵬翔高)のようなサッカー強豪校出身でもない。冒頭にあるように、「かじっていた」だけである。昨年11月にプロ野球担当からサッカー担当に異動してきた。球場で聞いていた「~さん」から、ピッチ上で耳にする「~君」…。どこか懐かしい思いを胸に抱き、日々の取材活動にいそしんでいる。【栗田尚樹】