柏のアカデミー出身者の台頭が目立っている。森保ジャパンのDF酒井宏樹(32)、中山雄太(25)はもちろん、今季はFW細谷真大(20)が6得点を挙げ東アジアE-1選手権の日本代表として中国戦でA代表デビューした。チームもDF古賀太陽(23)、上島拓巳(24)、パリ五輪世代のGK佐々木雅士(20)らが主力を担いリーグ上位に食い込んでいる。技術に加え、強い球際と戦う姿勢を伴った選手が育ってきた印象だ。アカデミーの取り組みを探ってみた。

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攻撃陣では高卒3年目の細谷、筑波大4年のJリーガーFW森海渡(22)、高卒1年目のFW升掛友護(18)が頭角を現した。アカデミーダイレクターの渡辺毅氏(49)は「率直にうれしいですね。その上でもっと安定して試合に出られるようになってほしい」と今後の飛躍に期待を寄せる。

アカデミー出身者が、早い段階で公式戦で結果を残しているのは、伝統の技術に加え、球際やハードワークの部分も意識づけられていることが大きい。渡辺ダイレクターはこう説明する。

渡辺氏 レイソルで育ったら「技術は持っている」という部分は、今も変わらず大事にしているところ。その上で、トップで軸になる選手を育てたいと、心と体の「たくましさ」にも手を付けていこうと。以前からもやっていましたが、ここ数年はより強調してやっています。

「たくましさ」をより強調するようになったのは、現代サッカーに求められる要素として広がったことに加え、15年に高体連の日体大柏高と提携したこともきっかけだ。渡辺氏は「高校サッカーの良さを間近に見るようになり、そこにもっとトライしようと」。

去年からは、アカデミー出身の酒井直樹氏がU-18の監督、国見高から明大を経て柏などでプレーした藤田優人氏がU-18のコーチに就任した。国見高や大学で鍛えられた藤田コーチが「闘う」「走る」ことを浸透させており、渡辺氏は「練習メニューが理不尽と思うかもしれないが、それが将来の役に立つことを実際に経験しているので。それを選手、他のスタッフに伝えられているというのは、うれしいというか、レイソルに今までなかった色だなと。その影響力も大きいですね」と話した。

もう1つ、選手育成で大事にしている伝統は、選手の個性を伸ばすための個々へのアプローチだ。渡辺氏は言う。「将来、いろんな監督やチームに出会う。求められたことを実行できる選手を育てるべきだと。1つのサッカーだけにこだわりすぎず、その中で選手の個性、個人が成長できるような個々のアプローチも増やしています」。

A代表の主力を担う酒井宏樹は無尽蔵の走力とスピードは飛び抜けていたが、U-18ではベンチスタートの時もあった。当時のU-18の指導者だった吉田達磨氏(現甲府監督)が、上がるタイミングやポジショニングなど「考える」部分を徹底して教え込んだ。その効果もあり、酒井はより自分の体の特長を生かせるようになり、日本代表へと飛躍した。

A代表に選出された細谷は、小学生時代に柏と提携するクラブに所属。当時からスピードがあり全国大会で得点ランク上位となりストライカーの気質が備わっていた。中学から柏のアカデミーへ加入。その年代は、細谷だけでなく、鵜木郁哉(21=現柏)ら前線にいい選手がそろっていたこともあり、FWを生かす2トップのシステムにするなど、選手の個性を伸ばす戦術も取り入れた。細谷はトップに昇格後、ネルシーニョ監督を筆頭に、よりハードワークの意識を植え付けられさらにたくましさが増し、パリ五輪を狙える位置にいる。渡辺氏は「個人を生かす、成長させることを考えて、戦術も変化している」と振り返った。

最近では、柏アカデミーから大学を経てトップに戻るケースも増えた。DF上島は、大学経由での“昇格第1号”。今季4得点のFW森も筑波大を経ての加入だ。大学でU-18以外のサッカーを経験し、たくましさをつけて戻っている。渡辺氏は「高校卒業後、すぐに試合に出られる選手は一握り。試合経験は選手が成長する要素。他クラブもそうですが、即戦力という形で戻るケースが多くなっている」と説明する。現在も、アカデミー出身者の動向をチェックすべく、頻繁に大学サッカーの現場を訪れている。

アカデミーのスタッフも、プロを経験したスタッフ、アカデミーを経験したスタッフとさまざまだ。渡辺氏は「アカデミー育ちで、プロや他クラブを経験して指導者として帰ってくるスタッフもいる。他の世界を知った上で戻ってきてくれることもすごくいいと思います」と、スタッフの経験の幅広さも強みとしてとらえている。

技術とたくましさ。その両輪を同時に磨くべく、柏のアカデミーは指導者も含め、進化と工夫を重ね、さらにトップや日本代表へ排出する挑戦を続けている。来季もどんなアカデミー出身者がトップ、日本代表へと羽ばたくか注目だ。【岩田千代巳】

◆柏レイソルアカデミー Jリーグ発足前の86年、サッカースクールが誕生。立地が東京、茨城、埼玉に近いこともあり多方面から希望者が訪れる。現在はU-18で43人が在籍。中学年代のU-15、小学年代のU-12がある。U-18は、12年に日本クラブユース選手権、14年に高円宮杯・プレミアリーグEAST優勝。U-15も02年に日本クラブユース選手権で優勝。現トップチームにはMF大谷秀和ら15人がアカデミー出身で所属している。(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

中山雄太(21年3月撮影)
中山雄太(21年3月撮影)