年末恒例の連載「取材ノートから」は、スポーツ担当記者が1年間の取材を振り返る。第1回はサッカー。日本代表バヒド・ハリルホジッチ監督(64)の素顔に触れる。16年は代表チームの停滞で批判にさらされた逆風の1年だった。歯に衣(きぬ)着せぬ物言いや、感情的な振る舞いばかりが注目されてきた。確かに変わり者だが、愛すべき面もある。サッカーと日本への思いは、本物だ。

 ハリルホジッチ=変わり者。就任から約2年。こんなイメージが定着しているはずだ。今年も日刊スポーツでは、会見でキレたり、質問に食ってかかる感情的な場面をよく取り上げた。そんな理解を後押ししてきたことになる。

 「私はかなり自分に厳しい男だ」と真面目に言う。自己分析通り、頑固で職人かたぎ。今年は手腕や発言に対し、日刊スポーツはじめメディアからの批判、日本協会内の一部からも懐疑的な目を向けられた。9月以降は去就問題もくすぶり続け、逆風にさらされた。

 就任以来、最も強い逆風が吹いたのが10月。W杯最終予選でイラクに奇跡的に勝ったが、直前のメンバー発表会見で進退についての質問も飛び、心はささくれ立っていた。ついには、ヤマ場のオーストラリア戦の前日会見で「勝っても喜ばない人には、ごめんなさいだ」。投げやりになった。

 11月。本田らを先発から外す大きな決断を下して臨んだサウジアラビア戦に快勝。首位の強豪をたたき、何とか持ち直した。結局、W杯自動出場圏内の2位で最終予選を折り返すことができた。年内最終戦を勝利で終え、会見では周囲への感謝を強調した。

 変わり者だが、素顔は好々爺(や)とまでは言わないが優しい。サッカー少年たちに進んでサインし、記念撮影にもできるだけ応じる。欧州でのたまの休暇から戻ると、代表スタッフにネクタイなどの贈り物を欠かさない。何より日本が好き。フランス・リールの自宅の庭には昔から桜の木があり、春にはきれいな花が咲く。その自宅で育った長男の結婚式が9月にあった。出席者には、日本で購入した伝統小物の扇子をプレゼントしている。

 確かに誤解されやすい。Jリーグと欧州を比較し「特にスピードはバイクに乗っている人とフェラーリくらい違う」とやってしまう。誤解を恐れず発言するのだが、少々打たれ弱く批判が気になってしまうタイプ。言わずにいられない性分だから、突っ込みどころも満載。だが、これだけは言える。サッカーと日本への愛に偽りはない。今年最も印象に残っているのはこんな言葉だ。

 「試合の時には1億3000万人(=日本国民全員)のジャーナリストがいると思っている。各自がそれぞれの意見を言っていい。問題ない。もっともっとフットボールが好きなんだなという雰囲気をつくってください。大好きだから、ここまで厳しいことを言うんだなと思えるような雰囲気を」

 代表監督は世界中で、いつも批判にさらされるもの。来年も、これまで通り厳しい視点で取材を続けていく。ただ、私もサッカーが好きで、日本が強くなるために何ができるのかを考えている。ハリルの教えに従い、大好きだからこその厳しい記事を書く。

 変わり者だから、歯に衣着せぬ物言いが気に入らないから…。そんな理由、単なる好き嫌いで記事を書いたり代表監督の首をすげ替えるようなら、日本代表はいつまでたっても強くはならない。そう思うからだ。【八反誠】

 ◆バヒド・ハリルホジッチ 1952年5月15日、旧ユーゴスラビアのボスニア・ヘルツェゴビナ生まれ。現役時代フランスで2度の得点王。ユーゴ代表として82年W杯出場。引退後はフランスのパリサンジェルマンなどで監督歴任。14年W杯ブラジル大会ではアルジェリアを率い16強。