日本がアジア杯UAE大会の第2戦でオマーンに1-0と辛勝し、16強による決勝トーナメント進出を決めた。昨年のワールドカップ(W杯)ロシア大会のベルギー戦と同時間帯のCK。悪夢のカウンターを想起しかねない状況で、新生日本代表が成長の兆しを見せた。担当記者が独自の視点で分析する「NIKKAN EYE」は、選手の証言から舞台裏に迫った。チームは17日の1次リーグ最終戦のウズベキスタン戦を戦うアルアインへ移動した。

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後半45分。日本が右CKを得ると、DF吉田が日本ベンチの方に顔を向けた。リードは1点。残り10分からオマーンの猛攻を受けていた。もう1点を奪いにいくか、それとも攻撃には参加せずカウンター封じに専念するか-。視線の先にいた森保監督は、手を大きく相手ゴールの方に動かした。「行け」。吉田はゴール前へと走っていった。

194日前の悲劇を招いた光景が、重なった。W杯ロシア大会ベスト16のベルギー戦、後半アディショナルタイム。左CKから勝ち越し点を狙ったボールを奪われ、電光石火のカウンター攻撃に沈んだ。この悲劇は、教訓とともにトラウマとなって心に刻まれた。

相手との力関係など、状況に差はある。だが、カウンター攻撃への“恐怖心”は類似していた。吉田は「残り10分は非常に苦しかった」とオマーン戦を振り返る。確実にいくならロシアの教訓を生かして攻め上がらなくても問題はなかった。それでも、日本代表は点を取りに行った。

選択肢は同じでも、思考と行動に変化があった。結果、オマーン戦もCKのボールは相手に渡ったが、ここからの対応が違った。ピッチ上に、ベルギー戦の惨劇を目撃した選手は7人もいた。吉田はすぐにきびすを返して駆けだした。真っ先に自陣に戻ったのはMF柴崎。DF長友はボールをつなごうとした相手に体をぶつけ、カウンターの芽を摘んだ。どちらの試合も、ペナルティーエリア付近の内外にいた選手は攻撃6人、守備8人。だが、ロシアの悪夢を知る選手たちは、高いリスクマネジメントの意識を携えて上で得点を奪いに行っていた。

そのCKの3分後に得た左FK。今度は「行くな」と指示を受けて自陣に戻りかけた吉田が、相手ゴールへと体を向き直した。「後ろが行けって言うから行きました。みんな下がっていたから」。同じくロシア組のMF原口は「全然問題ないですよ」と断言する。「相手の2枚に対し3枚で守れてるので切り返しさえしっかりやれれば大丈夫ですし。トミ(冨安)に『行くな行くな』ってベンチは言ってたんですけど3枚いるから大丈夫だと。僕は逆に『取りに行け』って」。情勢を冷静に見定め、ピッチ内で攻めを決断していた。

アジア杯はロシア組が23人中11人で、次世代との「融合」を図っている。新主将の吉田は「新しいチームで、新しい選手たちと、こういう難しい試合を1つずつ勝っていくことがつながっていくと思う」と話した。2連勝も厳しい試合が続いている。それでもロシア組を中心に、教訓を生かしながら呪縛を振り払い、新たな日本代表が作られていく息吹を感じる一戦だった。【浜本卓也】