【ドバイ(UAE)25日】日刊スポーツのサッカー担当記者が独自の視点で分析する「Nikkan eye」。開催中のアジア杯UAE大会からの第5回は、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR=ビデオ判定)による泣き笑いで、何とか4強入りを決めた24日のベトナムとの準々決勝から。

主将のDF吉田麻也(30=サウサンプトン)のアクションにUAEで取材を続ける日本代表担当の小杉舞記者が着目した。

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上がれ、上がれ-。辛勝したベトナム戦、印象的な場面があった。前半24分にCKからDF吉田が頭で決めて先制したかに思われた。だが、同26分にVARによってハンドと判定され取り消し。その間、約2分。得点後の相手ボールからの再スタートを待ち、日本は全員自陣に戻っていた。主審が手でVARの合図をした瞬間、吉田は前線へ上がるよう指示した。

ノーゴールの場合はゴールキックからの再開になる。瞬時に状況を判断した主将はゴールキック時の陣形へ戻るよう指示した。切り替えるまで1秒もかからなかったと思う。相手に一瞬の隙も与えなかった。その姿に日本の「余裕」を感じた。今大会、決勝トーナメント初戦のサウジアラビア戦で初めてフィールド選手10人を海外組が占めた。海外組の経験値は日本にしたたかさをもたらしたと思う。2-0とリードしながらも終盤に勝ち越されたW杯ロシア大会ベルギー戦。目の前で最後の失点シーンのカウンターをくり出された吉田は、一瞬の隙の怖さを知っている。隙を見せない戦い方に、成長を感じた。

VARもW杯ロシア大会で運用され、ドイツ、スペイン、オランダなど欧州リーグでは導入済み。プレミアには導入されていないが、国際Aマッチなどで経験豊富な吉田は「VARで審判が(映像を)見に行って多分ハンドかなと思った。しょうがないですね」と全くストレスなく、さらっと言ってのけた。

「したたかなチームになっている」。ベトナム戦後DF長友はそう口にした。日本が世界を追い詰めた13年コンフェデ杯イタリア戦(3-4)や18年W杯ロシア大会ベルギー戦(2-3)を例に挙げ「僕らがいい試合をしても結局勝つのは彼ら」と言った。アジアでは「結局勝つ彼ら」が日本でなければいけない。今大会、苦しみながらも、さまざまなパターンで5連勝。焦らず勝利に持ち込むという成功体験を積めている。

「今までは相手にボールを持たれるとナーバスになっていたけど、今は最終的に体を張れれば問題ない」と長友。吉田のVAR時の対応など、海外組がチームに還元している経験をもとに“勝利の方程式”が作り上げられ始めている。森保ジャパンが次のステップへ進むための兆しは、確かに見えている。【小杉舞】

 

◆小杉舞(こすぎ・まい)1990年(平2)、奈良市生まれ。14年に大阪本社入社。G大阪などを担当。W杯ロシア大会も現地で取材した。