真夜中の午前2時。11月のサッカーワールドカップ(W杯)アジア最終予選、アウェーのベトナム戦を終えた日本代表の森保監督は、宿舎のロビーにいた。

選手と向き合う

先にチームを離れて帰国するMF守田英正(26=サンタクララ)が姿を見せると、「ありがとう」と声をかけ、見送った。

累積警告により、次戦に出場できなくなり帰国を余儀なくされた守田。午前4時の飛行機に合わせて未明に宿舎を出ることを、指揮官は確認していた。「こんな時間に、わざわざ起きて見送りに」。そう選手に気を使わせないよう、「物音がしたから、起きてしまった」と笑ってみせた。部屋にいて、物音が響くことなどないのに。笑顔ではぐらかしたが、居合わせた日本協会関係者は「見送りにくる前も、眠っていたようには見えなかった」と明かした。

森保監督は必ず、活動を終えてクラブに戻る選手を見送る。選手によって乗る飛行機の出発時刻は異なる。ナイターの試合であれば、宿舎を出発する時間は選手によって午前1時、2時、4時など、ばらばらになる。全員に、毎回、ねぎらいと感謝を伝えている。ある選手は「今まで、そういう監督はいなかった。人として、あれだけリスペクトできる人はいない」と語る。

場合によっては、スタメンから外れた選手の部屋を訪れ、どのような意図での起用だったのかを1対1で話すこともある。それですべてが解決するわけではないが、会話の時間があった選手は「煮え切らない部分が残るのは同じでも、しっかり考えてくれているというのは伝わる」と話した。

最終予選では9月にホームでの初戦でオマーンにまさかの敗戦を喫し、3戦目のサウジアラビアにも負けた。選手の大多数が欧州組の中、W杯はおろか、欧州での指揮経験もない。それでもDF吉田麻也主将(33=サンプドリア)が「みこしを担ぎたくなる監督」と話す理由は、見方によっては監督らしくない、裏表のない人柄にあるのかもしれない。

裏がない「君が代」涙

監督にはさまざまな像がある。あえて突き放すことで選手の力を引き出す指揮官もいる。正解はない。ただ森保監督が実直に選手と向き合い、関係を作ろうとする思いは選手にも伝わっている。一方で勝負どころでは泰然自若。負ければW杯が絶望的だった10月のオーストラリア戦(埼玉)。試合前の練習に訪れた日本協会幹部は「コーチたちはさすがにぴりぴりしていたが、森保だけは何にも変わらなかった」と驚きをもって話した。

今年の全試合を終え、最終予選ではW杯出場権を得るB組2位につけている。試合前の君が代で涙を流し、すべての試合で自身の進退が問われていると言う。メディアに対しても、采配について「意見があれば教えてほしい」と忌憚(きたん)なく話す。どの言葉も、パフォーマンスではなく本気であることは、行動から伝わる。だから、周囲が力を貸したくなる。

選手起用が一部選手に偏り、大胆さに欠けるなどと采配への批判は渦巻く。ただ「みこしを担ぎたくなる」人望から生まれる結束力が、チームのひとつのよりどころになっているのは間違いない。【岡崎悠利】