12年ぶり2度目の出場の上田西(長野)が、全国選手権で初勝利を挙げた。

 Jリーグの甲府などでプレーした白尾秀人監督(37)は全校応援の大合唱を背にした試合後のインタビューで思わず涙ぐみ、決勝点となるPKを決めたDF大久保龍成(3年)は「勝つためのプレーを全員ができた。全員で守れた」と胸を張った。

 昨夏の高校総体8強の京都橘におくすることなく、積極果敢な攻守の切り替えを見せた。互いにチャンスをつくりながら一進一退の攻防が続いた後半23分、代わったばかりのFW田中悟(2年)がペナルティーエリア内で倒されてPKを獲得。その瞬間、ボールをいの一番に拾ったのは大久保だった。「自分が決める気持ちしかなかった」。豪快に蹴り込み、先制。その1点を守りきった。12年前の初出場時は鹿児島実に0-5で負けており、同校として全国初得点、そして、全国初勝利となった。

 同高を指導して2年目の白尾監督は「自分は選手に、楽しさを教えていない。勝つことしか教えていない」という。自身は鹿児島・与論島から長崎の名門国見高に編入し、小嶺忠敏監督のもとでプレーしてきた。「小峰監督には、楽しくやろうとは教わっていない。厳しかったし、厳しさの中に面白さがあった」。勝ちにこだわる-。それには理由があった。

 勝つことで人生が変わる可能性がある。今後、人工芝導入への機運が高まるなど、長野県、あるいは上田市近辺のサッカー環境を変えていけるかもしれない。長野のサッカーのレベルを上げられるかもしれない。そのためには「楽しい」で終わるわけにはいかない。「うちにはうまい子はいない。全国的に名が知れた子はいない。でも、素直に聞いてくれるし、余計なことを考えずに、ひたむきにプレーする」。

 長野県勢は長く3回戦の壁を突破できず、各都道府県で1代表制になった83年度以降、ベスト8には1度も進めていない。3回戦の帝京大可児(岐阜)戦でその壁に挑む白尾監督は「あと1つ、勝ってからですね。泣いてしまったのは無しにしてほしい(苦笑)。次に取っておきたいです」と、悲願成就を心に宿した。