29歳のJ1ルーキーが、開幕戦で2発デビューした。6年ぶりにJ1復帰した大分は、FW藤本憲明の2得点で、昨季ACL王者鹿島を2-1で沈めた。JFLで4年、J3で2年、J2で1年を過ごし、8年目にたどり着いたJ1の舞台でいきなり爆発。JFL~J1まで4カテゴリーの開幕戦で得点を記録する、史上初の選手になった。大分は13年10月19日の大宮戦以来1953日ぶりのJ1勝利を挙げた。

   ◇   ◇   ◇

7年の思いを左足に込めた。前半18分、DF2人の間を抜けた藤本は、GKのタイミングを外し、得意ではない左足で先制点を決めた。同点に追い付かれた後半24分には、FWオナイウが左から出したボールに逆サイドで反応し、右足ダイレクトで決勝点を挙げ、相手の追撃ムードに水を差した。「2点取ってもちろんうれしいけど、もう1点取ってハットトリックしたろうと思ってて、3点目が取れなくて残念です。反省します」と、浮かれることはなかった。

近大を卒業した12年。各年代の代表歴のない藤本には、プロから声がかからなかった。JFL佐川印刷に拾われ、午前はサッカーの練習、午後は工場で本の包装などの仕事をこなした。安月給だが、サッカーができるだけで幸せだった。「いつかはJリーガーになりたい」という当時の夢は、J1ではなくJ2の舞台。JFL3年目にできたJ3リーグが夢舞台になった。

藤本 J1に来るまで長かったんですが、僕がJ1で活躍することで、JFL、J3、J2で頑張っている選手たちの目標になれればいいと思います。そのためにもJ1で得点を取り続けたい。J3で24得点取ったことがあるので、J1でも目標は24点です。目標がクリアできれば、自然と得点王になれると思います。

開幕戦男だ。鹿島戦の得点で、JFLから4カテゴリーすべての開幕戦でゴールを記録した。過去に例がない。「開幕男と言われてますけど、次節はホームの開幕戦。そこは逃せませんよ。その次からは、開幕男を返上して、点を取り続けたい」。

23歳で結婚し、もう3児のパパだ。「なんとかなるが、僕のモットーです」。収入が少なく家族に苦労を掛けたが「なんとかなる精神」で乗り越えてきた。「J1もなんとかなるでしょう」。初舞台で気負わず、しっかりマルチゴールを決めた。チームに13シーズンぶりの鹿島戦勝利をもたらした。【盧載鎭】

 

▼4カテゴリー開幕弾 大分FW藤本が、J1初出場の開幕戦鹿島戦で2得点。J3鹿児島時代の17年、J2大分に移籍した18年も開幕戦でゴールを決めており、J3→J2→J1とJリーグの全カテゴリーで3年連続の開幕戦ゴールとなった。3つの違うカテゴリーでの開幕戦ゴールはJリーグ史上初めてだ。また、JFLの佐川印刷京都に所属していた14年にも開幕戦で1得点。藤本は4つのカテゴリーで開幕戦ゴールを決めた初の選手となった。

▼昇格組の開幕戦勝利 今季J1に昇格した大分が開幕戦で勝利。J2が創設された99年以降、開幕戦に勝利した昇格組は計13チームあるが、J2に降格したチームは1つもない。

◆藤本憲明(ふじもと・のりあき)1989年(平元)8月19日生まれ、大阪府出身。10歳でサッカーを始め、G大阪堺ジュニア、同ジュニアユースに所属。青森山田高から近大を経て12年にJFL佐川印刷入り。15年にはチームが解散し、16年からは鹿児島へ移籍してJリーグデビュー。2年連続でJ3得点王に輝くと、18年に当時J2の大分へ加入し、チーム最多タイの12得点をあげてJ1昇格に貢献した。家族は夫人と3女。175センチ69キロ、血液型AB。