イビチャ・オシム「ライオンに襲われた野ウサギが逃げ出すときに肉離れしますか?」

名将オシムがジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド市原・千葉)の監督に就任した1年目の03年4月、チームに故障者が続出した。とある練習後、報道陣からその件を質問された時の答えが、「ライオン~」だった。

この名言の真意は、あとに続く言葉まで聞かないことには理解できない。「準備が足りない。私は現役の時、1度もしたことはない」。オシムはコンセプトに「ボールも人も動くサッカー」を掲げていた。やみくもに走れというのではない。野ウサギは、ライオンであれ、どんな敵に襲われても逃げ切れるよう、常に素早く動く準備をしている。試合で自分の能力を最大限発揮するためには、日ごろからいかに試合に向けて準備をしているかが大事だということを「野ウサギ」に示しているところに、この言葉の深みがある。

オシムは実戦をイメージした多様な練習で若いチームの成長を加速させ、複数ポジションを高いレベルでこなす選手を輩出。第1ステージでは優勝争いに加わって3位、第2ステージも2位と成果を出した。

指揮官としての能力はもちろんだが、ユーモアとセンスにあふれ、人とサッカーへの愛がにじみでていた、哲学的なオシムの言葉は「オシム語録」として話題となった。05年にはナビスコ杯(現ルヴァン杯)を制してクラブに初タイトルをもたらすなど市原を強豪に押し上げ、06年に日本代表監督に就任した。だが、07年11月に千葉県内の自宅で急性脳梗塞(こうそく)で倒れて緊急入院。日本代表監督は岡田武史氏に交代となった。