尚志(福島)が誇る“半端ない”センターバック(CB)だ。アフロヘアがトレードマークのDFチェイス・アンリ(3年)は、サッカー歴6年目にしてプロ注目の選手へと成長を遂げた。187センチの長身を生かしたヘディング、対人守備、フィード力は、どれも一級品。先月、U-20日本代表候補に飛び級で招集され、24年パリ五輪で守備の要を担う力を秘める逸材の進化は止まらない。【取材・構成=山田愛斗】

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高校年代トップクラスの怪物DFは、エリート街道を歩んできたわけではない。アンリは元軍人で米国人の父レジナルドさんと日本人の母恵美さんの間に神奈川・横須賀で生まれ、3歳から米テキサス州に移住。米国で9年間過ごし、中学1年の夏の日本帰国と同時に、部活でサッカーに取り組むようになった。

アンリ 中学でサッカーを始めてからはプロになるのが夢で目標だった。周りから「無理、無理」とマイナスなことを言われていたが、それを見返したい思いはめちゃくちゃ強かった。

米国ではサッカー、バスケットボールなどさまざまなスポーツを経験し、「それで『サッカー楽しいな』となり、帰国して本格的に始めました」と実質12歳でスタート。「日本はみんな足元がうまくて、中学では自分が一番下手でついていけなかった」。幼稚園や小学校低学年で競技を始めた仲間に後れを取る中、必死にボールを追いかけた。

中学で最初に任されたポジションはFW。ところが、早々と挫折し、中学2年の夏にCBへと転向した。この判断がのちのサッカー人生に吉と出る。

アンリ ゴールを奪えず、足元もできずでFWから逃げました。前線でフィジカルでごり押ししても意味がないし、FWと逆の、守る側をやってみたいと思った。CBで初めて出場した練習試合で相手をかなり止められたのが大きかった。

言葉の壁もあった。今では流ちょうな日本語で会話できるが、「中1で日本に戻った時は『こんにちは』ぐらいしか知らなくて授業も全然分からなかった」。それでも中学2年ぐらいから徐々に習得。「みんなが話しているし、自分も慣れちゃいました」。英語が得意なことに変わりないが、驚異的な吸収力で日本語をマスターした。

神奈川県内の数校から進学オファーがあったという。尚志の存在は知らなかったが、将来性を高く評価され、福島行きを決断した。

アンリ 全国大会に出ている強豪校だと知り、「すごいな」という印象を受け、簡単にクリアせず味方につないだり、パスサッカーをやっているところに行けばうまくなると思った。

19年4月、尚志に入学した。当時はトップチームが高校年代最高峰のプレミアリーグEAST所属だったこともあり、セカンドチームの一員として同月末の東北プリンスリーグでいきなり先発し、公式戦デビューを飾った。「尚志に来た瞬間、みんながうますぎて苦労しました」。リーグ全18試合中11試合(先発9、サブ2)に出場。1年目で途中投入ながら全国選手権も経験した。

アンリの起用を巡り部内では賛否両論が渦巻いた。仲村浩二監督(49)は「ボールを蹴ることもまともにできない子で、素材感は抜群だけど、サッカー感はなかった」。アンリのミスで落とした試合もあった。それでも「セカンドの梅津コーチが信用して使った結果が今の彼の成長につながった」と振り返る。

主力として期待された昨季は、左股関節のけがを繰り返し、計6カ月ほど離脱。負傷に泣かされた。主戦場のスーパープリンスリーグ東北は不出場。公式戦は全国選手権福島県大会の準々決勝、準決勝の2試合出場にとどまった。

今季は順調に過ごし、先月、千葉県で行われたU-20日本代表候補のトレーニングキャンプに飛び級で参加した。「U-20でも全然やれたので、自分でもびっくりした。フィジカルや守備の強さは通用する」と収穫は多かった。昨年2月に鹿児島県で開催された国際親善大会でU-17日本代表に選ばれ、世代別代表初招集。決勝の東ティモール戦でヘディング弾を決め、「そこから自分の意識が変わり、自信を持てるようになった」と覚醒のきっかけに。「将来の夢は日本代表」。高い志で上を見つめる。

目指す選手像はオランダ代表のリバプールDFファンダイクだ。「守備だけでなく本当に全部がそろっているDFなので、ファンダイクのようなCBが理想」。さらに本家同様に「(欧州)CLで優勝したい」と海外挑戦の青写真を描く。

全国高校総体(インターハイ)は8月14日に福井県で開幕する。尚志は先月、福島県高校総体決勝で帝京安積に5-0で完勝し、11大会連続13度目の本戦出場を決めた。

アンリ 久しぶりに全国に行けるのが、めちゃめちゃうれしい。インハイも選手権も仲間と一緒に全国制覇することが一番。「高校NO・1CB」と誰もが認める存在を目指したい。

尚志初の日本一へアンリが“赤い壁”になる。

◆チェイス・アンリ(CHASE・Anrie)2004年(平16)3月24日生まれ、神奈川・横須賀市出身。横須賀・長沢中1年時にサッカー部で本格的に競技を始め、同中3年時の冬にFC湘南ジュニアユースで数カ月間プレー。19年に尚志入学。好きなチームはリバプール。好きな食べ物は肉。187センチ、80キロ。血液型A。家族は両親、姉、兄、弟。