「お祭り男」が、浦和での有終の美を飾った。浦和が大分を2-1で下し、3大会ぶりの優勝を飾った。1-1の後半ロスタイムに、途中出場のDF槙野智章(34)が右CKからの流れで、頭で押し込んだ。契約満了のため今季限りで退団する男が、浦和ラストマッチで来季のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)切符をもたらした。クラブは歴代最多タイ8度目の制覇で、今季限りで現役引退するMF阿部勇樹(40)の花道を彩った。

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槙野は、GK西川の元に駆け寄った。スコアは1-1。後半45分。勝利目前で、同点とされたところだった。

槙野 このまま、終わらせる?

第4審判はアディショナルタイムを「5」分と示した。

西川 あと5分あれば、何か起きるな。槙が最後は持ってけ。槙が前に行って、ゴールを取りに行け。

3分後。槙野は最前線に上がっていた。右CK。こぼれ球に反応したMF柴戸が、ペナルティーエリア外の中央から強烈なミドルシュート。その先に槙野がいた。「入らないと思って(笑い)」。頭でコースを変え、ネットを揺らした。西川は「有言実行するなんて」と涙をグッとこらえた。途中出場してから10分後だった。槙野は「お祭り男、エンターテイナーですから。最後の10分は槙野劇場にしたいと思っていた」と笑ってみせた。

気温10度に満たない国立。得点を決めると、迷いなく、ユニホームを脱ぎ捨てた。後でイエローカードを受けたが、「浦和の5番槙野を忘れて欲しくなかった」とゴール裏のサポーターの元へ駆け寄り、ユニホームを掲げた。11月16日、クラブから契約満了による退団が発表された。浦和の一員としてラストマッチ。先制点を決めたMF江坂は「浦和の歴史をつくってきてくれた人。浦和の男だと感じました。強い気持ちを持った選手が試合を決めると感じた」と最敬礼だった。

準決勝のC大阪戦では、同じく契約満了で退団するMFが宇賀神が、決勝点を挙げた。スタンドからは引退を表明したMF阿部が戦況を見つめた。「全員で天皇杯を」。だからこそ、西川は、途中出場した槙野にキャプテンマークを託した。このメンバーで、試合をすることは、もうかなわないから。

槙野は「契約満了を告げられて3週間は整理つかなく、毎日泣いていた」と素直な思いを口にした。ただ、浦和の一員として戦うことはやめなかった。「チームのために何が出来るのか」と最後の最後に、タイトル、ACL行きの切符を置きみやげとした。試合後、槙野は「携帯電話が鳴りやみません」と言った。既に神戸の獲得が決定的。槙野は「来季は別のチームとなりますが」と、つらそうに言葉を発した。制限解除で5万7785人の観衆が集まった国立は歓喜、悲哀に包まれた。【栗田尚樹】