広島が奇跡的な逆転勝利を収め、悲願の初優勝を飾った。1点追う後半終了間際にキプロス代表FWピエロス・ソティリウ(29)の連続得点で2-1とC大阪を逆転。天皇杯6度、この大会3度目となったカップ戦決勝は、通算9度目で初めて頂点を極めた。就任1年目のドイツ人、ミヒャエル・スキッベ監督(57)の下、黄金時代が再到来した。

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主将DF佐々木は泣いていた。J発足30年目、天皇杯と合わせたカップ戦決勝は、この日が9度目で初優勝。6日前に天皇杯決勝でJ2甲府に敗れていた主将は「うれし涙は人生で初めてです」。9分のロスタイムに2発という劇的な逆転で幕を閉じた。

敗色濃厚で迎えた1点を追う後半51分、途中出場のソティリウが同点PKを決め、同56分にも右足で決勝点を挙げ、大会MVPまで獲得。天皇杯準々決勝と同様、C大阪に最終盤の連続2得点で再びミラクルを演じた。

自らのバックパスから先制点を許した佐々木は「みんなに助けられた。この成功体験は、クラブの今後に生きるのは間違いない」と興奮を隠さない。

スキッベ監督は「やっと広島が優勝杯を持ち帰ることができる。忘れられない1日」と胸を張った。

成功はドイツ人監督によってもたらされた。相手に奪われた球を、その瞬間にプレスをかけるなど攻撃的なスタイルで、リーグ戦はここまで3位。新人MF満田らのプレー強度や運動量がはまった。

21年のチーム人件費は約51億円の神戸がトップで、広島は12位の約19億円。02年W杯でドイツ代表コーチで来日した指揮官は、母国で若手育成に定評があった。日本一の育成型クラブを目指し、足立強化部長が20年来の調査とラブコールで招聘(しょうへい)に成功していた。

36歳MF青山は「若手が頑張り、監督が作ってくれた道筋に、僕らが乗せてもらった」。理詰めの戦術に加え、23歳MF川村ら若手を育成。64年東京五輪など日本代表の強化に携わったデットマール・クラマー氏のように、同じドイツ人のスキッベ監督が、森保監督時代の12、13、15年の3度リーグ戦で優勝した広島を復活させた。

「来年も魅力的で成功するサッカーを目指したい」というスキッベ監督に、クラブは新スタジアムが完成する24年まで3カ年計画で指揮を任せる方向だ。9度目の正直でつかんだ栄誉は、広島の黄金時代再到来を告げた。【横田和幸】

◆サンフレッチェ広島 1938年(昭13)に東洋工業として創部し、93年元年からJ参入。94年第1ステージ優勝、2度のJ2降格を経て森保監督時代の12、13、15年にJ1優勝の黄金時代に。クラブ名は日本語の「三」とイタリア語の「フレッチェ=矢」を合わせた造語で、広島にゆかりの深い戦国武将毛利元就の故事に由来し「三本の矢」を意味。クラブカラーは紫。ホームタウンは広島市、本拠地はエディオンスタジアム広島。仙田信吾社長。

◆ルヴァン杯 92年からヤマザキナビスコ杯として始まったカップ戦で、Jリーグ、天皇杯と並ぶ国内3大タイトルの1つ。95年をのぞき、毎年開催され今年で30回目。16年途中から現在のルヴァン杯に。決勝は一発勝負。最多優勝は鹿島の6度。優勝賞金1億5000万円、準優勝5000万円など。