全国高校サッカー選手権(12月28日開幕)に熊本代表として出場する前回大会準優勝の第2シード大津は、2回戦からの初戦で浜松開誠館(静岡)と対戦する。

組み合わせ抽選が21日東京都内で行われ、U-19日本代表候補FW小林俊瑛主将(3年)は「スローガンの『超越』を胸に去年の成績を超えられるよう頑張ります」と引き締めた。高校年代最高峰の高円宮杯U-18プレミアリーグの西地区で戦う実力校だけに、今大会での県勢初優勝への期待は大きい。

前回は優勝した青森山田の前に、シュート0本で0-4の完敗を喫した。だが、これまで積み上げてきた努力が報われた準Vだった。その躍進の裏には、サッカー環境の充実があった。

熊本県による公立校のスポーツ強化の一環で、87年にサッカーの拠点として普通科体育コースが増設されて台頭した。全国高校選手権は87年度大会初出場。帝京(東京)主将で83年度選手権を制した平岡和徳氏(現総監督=57)が93年に監督就任して力をつけ、97年度大会で初めて8強入りを果たした。

さらに、99年「くまもと未来国体」に合わせて、4面が整備されたサッカー場のナイター照明付き人工芝グラウンド2面を、学校グラウンドに加えて17年から本格利用。プレー速度や技術が格段に向上した。大所帯だが、3カ所同時練習で、平等に濃い内容の練習に取り組めている。

プレミアリーグ西地区参戦の経験も大きい。13年の初昇格から、18年には3度目の昇格を果たした。特に4位だった昨年、夏の日本クラブユース選手権で優勝した名古屋を5-1で下すなどで自信を深めた。経験は貴重な財産だ。

全国区の実績を残す中で、県外からJリーグジュニアユースの優勝経験者ら有望選手の進学も増え、部員は強豪私学並みの約170人に。昨年、セカンドチームが県リーグを制してプリンスリーグ九州昇格を決めるなど、選手層の厚さは全国レベルでもある。

平岡氏は15年から総監督を務めるが、その間、ワールドカップ(W杯)カタール大会メンバーの日本代表DF谷口彰悟(川崎F)や元日本代表FW巻誠一郎さんら50人超のJリーガーを輩出している。一方で、卒業生の多くが県内で指導者に転身。大津監督に20年就任の山城朋大監督らコーチ陣は、ほぼ全員が同校出身者だ。「平岡DNA」を受け継いだ熊本国府やルーテル学院などライバル他校監督の底上げにより、県全体のレベル向上が高校年代の激しい競争につながっている。

大津イレブンは、次代を担う地元の子どもたちの誇り。町民のエールも糧だ。大津町は「くまもと国体」のサッカー会場になったことを契機にサッカーで町おこしを始めた。00年に設立された「スポーツの森・大津FC」のユニホームには、大津高と同じエンブレムがつけられ、モチベーションになっている。地元のサッカー活動はユース、社会人、シニアのチームまで幅広く、人口約3万5000人の阿蘇山麓の町は「生涯サッカーの町」として活気を見せている。

91年、同町は園児がサッカーに身近に触れる機会を設けるために、保育園や幼稚園にハンドボール用のゴールポストを無償提供したこともある。同時に、保母さんを対象にしたサッカー講習会が行われるなど盛り上がった。かつては“ゴールポスト世代”からU-15日本代表が誕生して、大津高でも活躍する選手が生まれたこともある。

今では大津の主力のほとんどは町外や県外で占められるが「公立の雄」として、サッカー界の注目度は高い。J1参入プレーオフ決定戦で敗退も、複数の大津出身選手が活躍したJ2ロアッソ熊本の快進撃に続いている。【菊川光一】