J1アルビレックス新潟からベルギー1部シントトロイデンに完全移籍するMF伊藤涼太郎(25)が、11日のホーム、京都戦に向けて準備を進める。時間とスペースが限られた現代サッカーの中でテクニックと創造性に優れたプレーでファンを魅了するタイプの司令塔は出番と役割を失う傾向にあるが、ファンタジスタは決して絶滅していない。度肝を抜く美技をゴールに直結させる伊藤が「新潟ラストマッチ」でも輝きを放ち、公式戦2連勝を置き土産に欧州に向かう。

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繊細なタッチ、両足から繰り出すパスで攻撃をけん引する天才肌の司令塔。7日の天皇杯2回戦のレイラック滋賀FC(JFL)戦(1-0)は後半29分から途中出場した。相手守備の編み目が緩んだ位置でボールを引き出すと、素早い反転からFWにラストパスを通してチャンスを演出。ロスタイムには左ポスト直撃のシュートを放つなど、短い出場時間でスタジアムを沸かせた。

負けず嫌いで努力家だ。チーム練習ではウオーミングアップ1つから、勝負にこだわる。「もっと、もっと上のレベルに行きたい」。全体練習後には最後までピッチに残りシュートを打ち続けた。圧倒的な成長欲を見せる25歳は日々の練習から、実戦を通してもアップデートを繰り返し、欧州挑戦の“切符”を自らの力で勝ち取った。

セレッソ(C)大阪のU-15からU-18への昇格を逃し、岡山・作陽高(現作陽学園)に進学。同校でコーチを務めていた佐々木篤史氏(現新潟医療福祉大コーチ)は「(C大阪U-18に)昇格できなかったことをパワーに変え、毎日、取り組んでいた」と当時を振り返る。反骨心を力に、1年から主力になると世代別日本代表の常連になった。2年冬には背番号10をつけて全国選手権に出場し、注目を浴びた。3年時には浦和や広島などJ1クラブへ練習参加するまでに成長した。

高卒1年目の16年に浦和でプロデビュー。18年は期限付き移籍先の水戸で9得点をマークしたが、その後はくすぶった。プロ入り後も頻繁に連絡を取り合っていた佐々木氏は「相当、腐っていた時期もありましたね」と笑いながら当時を語るが、新潟移籍からの活躍を自分のことのように喜ぶ。「諦めずに努力した。(海外移籍は)涼太郎らしい決断。向こうでも暴れてほしい」とエールを送る。

伊藤は今季開幕戦で出身クラブのC大阪(2-2)と対戦し、憧れの元日本代表MF香川真司(34)の前で2アシストを決めた。「当時、隣のグラウンドで練習をしていて、サインをもらったことがありました」と同じピッチに立ち、感動していた。新天地はかつて香川も所属したシントトロイデン。「移籍決断は間違いじゃなかったと証明したい」。

ラストマッチとなるホームでの京都戦は、新潟に在籍した約1年半の思いを込めてピッチに立つ。伊藤は「サポーターの記憶に残るゴール、プレーをしていきたい」と力強く語った。【小林忠】