女子日本代表なでしこジャパンで長く活躍し、今季限りで現役引退することを表明していた、ちふれ埼玉のMF山本絵美(41)が現役ラストマッチを迎えた。

ベンチスタートから後半40分、交代でピッチへ送り込まれると、この日最大の拍手が送られた。0-4と劣勢だった中、中盤に入って正確にパスをつなぐ。ボールに触る機会は多くなかったが、オープンになった終盤の展開の中で懸命に走り抜いた。

昨年2月に左膝の前十字靱帯(じんたい)を損傷。全治6~8カ月でシーズンを棒に振り、この日が約1年半ぶりのリーグ戦出場だった。それが現役最後の一戦。先月16日に発表し、悔しい結果となったが、試合後には引退セレモニーが用意され、サポーターに直接あいさつする幸せに恵まれた。

18歳で当時の日本女子リーグに入ってから23年。00年に田崎ペルーレFCで10試合7得点のデビューを飾り、新人王に選ばれた。03年には20試合17得点と爆発し、日本代表として同年のFIFAワールドカップ(W杯)米国大会に出場。当時21歳は全3試合に先発出場し、初戦のアルゼンチン戦で得点を決めた。

翌04年には、東京・国立競技場でアジア女王の北朝鮮を破ってアテネ五輪(オリンピック)切符をつかんだ。本戦でも準々決勝の米国戦で直接FK弾。1-2で敗れたもののベスト8に入り、なでしこ飛躍の礎を築いたレジェンドだ。

米国のシカゴなどでプレーした後の12-13年シーズンは、イタリア・セリエAのナポリへ移籍。18試合9得点で最優秀選手賞に輝いた。まさに快挙だった。

その後は選手兼コーチの立場で国内復帰。世界の5大リーグから関東2部の横浜FCシーガルズを加入して驚かせ、昨季、ちふれ埼玉でWEリーグの旗揚げを迎えた。初年度から主将を務めたが、シーズン後半、先述の通り大けがで戦線離脱。このエルフェン2季目を花道と決め、最終節に舞い戻った。

現役時代、通底していたのは「私たちはプロではない。だからこそプロ以上の意識を持ってサッカーに取り組む」という覚悟。実に23年間でリーグ戦284試合86得点の成績を残し「これからは私が学んだことや感じたことを女子サッカーに少しでも還元できたらと思っています」の誓いとともに、記憶とともに、愛するピッチに別れを告げた。【木下淳】