12月3日をもって、Jリーグの全日程が終了した。J1はヴィッセル神戸、J2はFC町田ゼルビア、J3は愛媛FCがそれぞれ初優勝を果たした。Jリーグ開幕から30周年。クラブ、リーグで積み上げられてきた歴史がある。これからのJリーグはどうなるのか。このほど、戦略コンサルティング会社「FIELD MANAGEMENT STRATEGY(FMS)」の社長で、Jリーグのストラテジーダイレクター(SD)を務める中村健太郎氏(45)が、日刊スポーツの取材に応じた。全2回の2回目は、社長として運営に関わり、来季から社会人関東1部リーグに参入する「エリース東京FC」ついて聞いた。【取材・構成=佐藤成】

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中村氏は、高校までサッカー漬けの毎日を送った。都立の雄・久留米高校(現東久留米総合)でプレー。大学では続けなかったが、社会人リーグで現在もプレーする。

サッカーへの愛は人一倍強いが、社会人としては、コンサル畑で働いてきた。これまでサッカー界と仕事をすることはほとんどなかった。21年に知人からJリーグ野々村芳和チェアマン(51)を紹介され、交流を深めた。ビジネス領域の人間からの意見を知りたいと、声をかけられ、Jリーグで仕事をするようになった。

Jリーグの成長戦略にも上がっている「60クラブがそれぞれの地域で輝く」「トップ層がナショナル(グローバル)コンテンツとして輝く」。中村氏はJリーグのストラテジーダイレクターとしてグローバルに働く一方で、地域リーグのエリース東京FCの社長としてローカルにも目を向ける。

中村氏が社長に就任し、エリース東京は体制が大きく変わった。YSCC横浜のセカンドチームで監督を務めていた山口遼氏(28)を招聘(しょうへい)し、選手も半分以上入れ替わった。その中で、ボールを大切につないで崩すサッカースタイルを貫き、今季は関東2部で優勝した。

「見ていて楽しい。やって楽しい。あとは、応援して楽しい。やってみたくなる。こんなサッカーを作りたかったんですよね。Jリーグでできればいいんですけど、その全権を委ねてくれる機会なんかあるわけもなく。それで巡り合わせでエリースから話をもらって始まりました」

単なるスポンサー、お飾りの社長ではなく、選手編成から監督、練習日程も含めて全部やりたい。中途半端に関わるのはいやだった。

自分感じる魅了的なサッカーを因数分解していくと、「バイタルエリアでボールを持って崩すこと」に行き着いた。「10番が輝くサッカー」だった。その上でまずこだわったのは監督。元々サッカーへの情熱は強く、エリース東京の経営に参画する前から、魅力的なサッカーだと感じる監督に会いに行っていた。「完全に趣味です。どうやったら美しいサッカーを作れんだろうかなっていうのがすげえ知りたかったんですよ(笑い)」。

その中で知り合ったのが山口監督だった。東大監督時代の練習や試合を見に行ったり、他の試合を一緒に見に行ったりして、サッカーについて議論を深めた。「非常に言語化されていて現象への答えを持っていて、さらに僕が面白いなと思ったのは、彼にはその現象を作るためのトレーニングのイメージがあったんですよね」。

そんな中で今年始動したチームは、関東2部で圧倒的な強さを発揮した。中村氏が思い描いていた「魅力的なサッカー」で他を寄せ付けず、15勝1分け2敗。48得点19失点を記録した。「20年もコンサルをやっているので、仕事柄あんまり感情的になることってないんですよ。フィードバックはするけど、怒ったりはしない。意味がないから。でもエリースのサッカーを見ている時は自分でもよくわからない精神状態になります」と笑う。それほど熱くなれるものだった。

本拠地のある豊島区との連携を深め、ファン、サポーターの獲得を目指している。ただ、Jリーグに所属するようなプロクラブとは異なり、スポンサーが付きづらいという。地域クラブの宿命だった。もちろん放映権収入もない。その意味で、経営に難しさは感じている。「スポンサーをやるメリットがないんですよ。経営コンサルタントとしては、非常に矛盾をはらんで営業しなきゃいけない。胸を張って『御社の経営に貢献しますよ』とは、なかなか言い切れないので」。

そこで見つけた突破口は「チームビルディング」だという。昨今、組織の結束力を上げてパフォーマンスを上げるために注目を集めるチームビルディング。年齢、性別関わらず、仲を深めるためにさまざまな企業団体が取り入れている。

「チームと一緒に成長してくっていう純粋な応援心というのは、人と人とをつなぐ非常に強い媒介になるんですよね。僕らは、それをチームビルディングというソリューションにして、スポンサーにご提供しているんです」

エリース東京FCの試合を見に来てくれた、あるスポンサーに対しては、その組織の運動会にエリース東京の選手を派遣した。別のスポンサーには、部課長以上の研修を、サッカーコンテンツにして、選手やスタッフを含めて一緒にサッカーフェスティバルを開催した。関東リーグならではの選手の距離を生かしたスポンサーへの価値提供というものを見つけつつある。

さらに「FMS」がエリース東京のスポンサーをやっていることもあり、コンサルティングスキルを生かす取り組みも検討しているという。豊島区と社団法人を作り、サッカーコンテンツとコンサルティングスキルを活用して行政課題の解決に臨んでいく。

見据えるのはJリーグへの参入だが、今のままでは厳しいことは承知している。JFL、J3までを見通した上で強化をしていく必要がある。そのためには、スポンサーに返す価値を高めていくことが求められる。

「漠然と『みんなで応援します』ではなくて、チームビルディングで、チームのパフォーマンスが上がりますとか、具体的に採用の人数が上がったとか、スポンサー同士をマッチングして仕事の受注まで持っていきますみたいな、具体的な成果を追求していきたいですね」

コンサルタントならではの視点で、しっかりと価値を提供したい。ある日、Jリーグの仕事でプレミア王者マンチェスター・シティと幹部と交渉したかと思えば、次の日には関東2部のエリース東京FCの試合を視察に行くような生活。グローバルとローカルをいったり来たりする。それが楽しい。「やりがいも面白みもありますし、なんか生きているっていう感じがします」。Jリーグの行く先とともに、エリース東京FCの未来も追っていきたい。(終わり)

Jリーグ中村健太郎SD「選手の価値を上げてクラブに還元。これは急務」マンCから学び(上)