12月3日をもって、Jリーグの全日程が終了した。J1はヴィッセル神戸、J2はFC町田ゼルビア、J3は愛媛FCがそれぞれ初優勝を果たした。Jリーグ開幕から30周年。クラブ、リーグで積み上げられてきた歴史がある。これからのJリーグはどうなるのか。このほど、戦略コンサルティング会社「FIELD MANAGEMENT STRATEGY(FMS)」の社長で、Jリーグのストラテジーダイレクター(SD)を務める中村健太郎氏(45)が、日刊スポーツの取材に応じた。全2回の1回目は、今後のJリーグの進むべき道筋について聞いた。【取材・構成=佐藤成】
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今季のJリーグの取り組みとして1つ挙げられるトピックとして、夏のマンチェスター・シティ(マンC)を招聘(しょうへい)がある。欧州チャンピオンズリーグ(CL)を制したプレミア王者の来日には多くのサッカーファンが歓喜し、国立で開催されたバイエルン・ミュンヘンとの試合では6万5049人を集めるなど、大盛況だった。
中村氏はJリーグ側の責任者として、世界時間をかけて交渉に当たった。そこで感じたことがある。「選手の価値を上げて、クラブに還元させる。これは急務だと思いました」。久保建英(Rソシエダード)、三笘薫(ブライトン)、冨安健洋(アーセナル)、遠藤航(リバプール)ら、日本人のトップレベルの選手が増えてきている。しかし、「日本産」の選手が多額の移籍金をJクラブに残してビッグクラブに行くのではなく、1度欧州の別クラブを挟んでいく現状を思い悩む。夏に来日したマンCは、試合だけでなく、講演会やファンとの交流イベントも積極的に行った。中村氏はマンCのフェラン・ソリアーノ最高経営責任者(CEO)と話す中で、ハッとさせられた。
「いい選手を作って輩出することはできている。(マンチェスター)シティはそれを完全に商売にして、価値に変えて、それをチームの強さに再投資しているということにすごく差を感じました」
その例をもっと多く作りためには、Jリーグが海外移籍のために各クラブをバックアップする体制を作る可能性も出てきそうだ。「お金もうけ」という言葉が独り歩きするが、日本サッカー、Jリーグの価値を高めることが、強化につながることは間違いない。
「移籍金の収入という意味で言えば、中継貿易をされているわけですよ。(海外の)クラブが日本でのパフォーマンスは信じられないっていうことで1回ベルギーで試してほしいとか。でも例えばJリーグだって横浜F・マリノスとかめちゃくちゃ強度高いじゃないですか。アジリティもあって技術も正確ですし。だからJリーグとしては選手を連れてくるだけではなくて、海外クラブとの連携を強化して、送り出すこともやるべき。それは選手だけじゃなくて監督とかヘッドコーチとかもそうですね」
手っ取り早くJリーグの存在感を世界レベルに高めるには、クラブワールドカップ(W杯)で優勝することだという。あるいはアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で常に優勝争いをすること。注目度が上がることで海外のマーケットも開拓することが可能になる。
一方で有望な選手が海外に移籍してしまえば、Jリーグ自体のレベルや人気が低下するという指摘もある。中村氏はこう解説する。
「そこの考え方なんですけどね、グローバルスポーツなので絶対に海外に出ていってしまうんですよ。だけど、取ればいいわけですよ。10億円で選手が売れたら、ブラジル人選手を取れば、リーグのレベルっていうのは上がっていく。それは別に日本人でもいい。優秀な選手を取れば、リーグ全体のアスリートバリューってのは絶対上がるわけですよ」
リーグの価値を計る物差しはたくさんあるが、重視するのが「アスリートバリュー」だという。選手の市場価値。アジアで日本は長らく1位だったが、世界トップクラスをお金でかき集めたサウジアラビアに抜かれた。「これは残念ながらお金の関数なんですけど、全体のトータルのスカッド(戦力)のバリューが高いリーグっていうのは、絶対に競争力が高い。そこでやれれば揉まれるから、絶対に強くなると思いますよ」。
世界最高峰と呼ばれるイングランドプレミアリーグは、放映権収入もスポンサー収入も桁違いだ。ただ、そこだけに目を向けるのではなく、それぞれに相関関係があることを認識することが大切。どれか1つを高めるというよりは、同じ割合で総合的に大きくなることが求められる。そのために、育てた選手という「リソース」を活用して選手やリーグの価値を高める必要がある。
「プレミアでやりたいっていう選手がいるのはいいんですよ。ベルギー人だってプレミアでやる選手はたくさんいるわけですから。でもベルギーリーグは成立していて、代表のレベルも高いですよね。それはポルトガルとかオランダも同じです。(Jリーグを)なんとか5大リーグのちょっと下くらいまでもっていければ、と思っています。アスリートバリューを上げることは、選手の流出というものの関数ではないと僕は思っているんですよね」
中村氏は「スポーツの感動が価値になっていない。その価値がお金になっていない」という問題意識を持っているという。
「Jリーグに行くって、東大に入るよりはるかに難しいですね。本当に一握りの人が作る感動というのは、めちゃくちゃ深いものがあるわけですよ。大の大人が、泣いたりとか、抱き合ったりするわけですよね。でもそれがお金に変わってない」
前職はコンサル大手の「アクセンチュア」。業界のトップで働きながら、「スポーツ界は仕組みが間違っているのではないか」と考えていた。日本では何かと「お金もうけ」が良いものとして受け入れられないが、アメリカでは大谷翔平投手(29)が10年総額1015億円の契約したことが大きな話題になったように大きなビジネスとして成り立っている。「日本でもスポーツ業界をもうかる、人が集まる産業にしたい」。その思いでスポーツ業界に参画した。
コンサルタントらしい冷静な語り口の一方で、現在もシニアリーグでプレーするサッカーへの情熱は人一倍強い。現在はその経験、ノウハウを生かして、世界をより意識したJリーグの仕組み作りに奔走している。(続く)



