ワールドカップ(W杯)躍進の立役者からの金言-。ラグビー元日本代表の五郎丸歩氏(36=静岡ブルーレヴズ・クラブ・リレーションズ・オフィサー)が、親交のあるDF酒井宏樹(32)らサッカー日本代表へエールを送った。15年ラグビーW杯イングランド大会で格上の南アフリカを破り、フィーバーを巻き起こした1人。酒井にはベテランとしての存在感を、日本代表には8強の「その先の目標」を期待した。

      ◇      ◇

フランス南部、地中海沿岸にある都市マルセイユ。青く美しい海を望む街で、2人のトップアスリートは仲を深めた。五郎丸氏は酒井と同じ異国で過ごした日々を、さまざまな思いで振り返る。

「日本人が少ない場所で生活する。しんどい時がお互いにあるなかで、いい意味で支え合った時期なんじゃないかなと思います」

16年にフランス1部マルセイユへ移籍した酒井。その少し後、五郎丸氏もラグビーフランス1部トゥーロンでプレーするため、海を渡っていた。

親交のきっかけは、共通の栄養士の紹介。「(酒井は)すごく礼儀が正しくて、丁寧にいろんなことを教えてくれました。そして、2人とも似ていて、あまり表舞台に出たくない人間というか…」。通じるもの、子どもがいる共通点もあり、自然と仲は深まった。車で約1時間の距離を行き来し互いの家族と過ごす空間。挑戦の日々の中で、リラックスできる時間だった。

開幕戦でスタメンデビューを果たすなど、すでに主力として活躍していた酒井。現地の人は、日本人を見る度に「サカイ、サカイ」と声をかけた。五郎丸氏も道を歩いていると、例外なく「サカイ」と呼ばれた。

「なんで日本でこんなに報道されないんだろうというぐらい、知名度と存在感、それから実力がありました。僕自身は勝手に、一番評価されるべき人なんだろうなと思っています」

五郎丸氏はフランスで1度、酒井の試合を見に行ったことがある。スタジアムの売店には「サカイ」グッズがあふれ、ファンはアジア人を見つける度に「サカイはこれだけすごいんだ!」と熱弁していた。

「試合に出ている姿が一番刺激的でした。日本人が全くいないような環境で、1人で戦っている姿は本当にすごいなと感じました」。フィジカル勝負のフランスで1歩も引かない酒井のプレーに、大観衆が歓声をあげていた。

あれから約6年。32歳でW杯を迎える盟友へ、贈る言葉は-。

「DFって、なかなか日の目を浴びないですよね。その中でも、日本人のプライドをしっかり見せながら、後ろでチームを支えて。彼の経験からしたら、後輩たちも背中を見て、ついていくんじゃないかな。どんな状況になっても、チームが進むべき方向性をベテラン選手が示してほしい」

15年ラグビーW杯イングランド大会。五郎丸氏ら日本は南アフリカに金星を挙げ、フィーバーを巻き起こした。あれから7年-。8強という目標を胸に抱くサッカー日本代表へ、贈る言葉があるとすれば-。

「なんのために勝ちたいか。自分たちは、15年のW杯で日本代表をあこがれられる存在までしっかり引き上げて、19年のW杯自国開催を成功させるという明確なプロセスがありました。ベスト8はあくまで材料でしかない。その先にどういう世界観を持っているかは、すごく大事なことだと思います」

ベスト8のさらに先を思い描くこと。4年に1度の大舞台で躍進した立役者の金言は、カタールにも届くはずだ。【磯綾乃】

◆五郎丸歩(ごろうまる・あゆむ)1986年(昭61)3月1日生まれ、福岡市出身。3歳でラグビーを始め、小学4~6年はサッカーでも活躍。佐賀工高では3年連続で花園に出場し、早大では大学選手権を3度制した。08年にヤマハ発動機(現静岡ブルーレヴズ)に入団。15年W杯後は海外に挑戦し、スーパーラグビーのレッズ、フランス1部トゥーロンなどに所属。21年限りで現役引退し、現在は静岡ブルーレヴズでクラブ・リレーションズ・オフィサーを務める。