“浅野拓磨の神”が降臨した。2-1で逆転勝ちしたドイツ戦。決勝点は、FW浅野拓磨(28=ボーフム)の一世一代のゴールだった。

9月に右膝を負傷し、一時は出場が危ぶまれたが、一夜にしてヒーローに。この得点をロングパスで演出したのは、同じくブンデスリーガでプレーし、同じ右膝の負傷から復活したDF板倉滉(25=ボルシアMG)。ドイツで励まし合い、カタールのピッチに立った“ナイソクコンビ”。日本が熱狂に包まれた。

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世界を驚かせた日本の金星。その世紀のゴールを奪った浅野は試合後、自身のツイッターに「悔しいこともうれしいことも、ムカつくことも全てが今日、この瞬間につながってる。感謝」とつづった。

MF堂安の同点弾が生まれた8分後。後半38分に歴史的瞬間がやってきた。板倉がFKから放った山なりのロングパス。助走から右足でトラップした浅野は、50メートル走5秒8の快足で飛ばした。最後はゴール右、角度のない位置から世界的守護神ノイアーのニア上へ、右足で豪快な1発を射抜いた。

「やったぞって、気持ちが最初にきた。今日に関してだけは、ヒーローになれたと思う」。広島時代からお決まりの、両手の爪を立てるジャガーポーズを初出場の大舞台で披露した。

所属するブンデスリーガのボーフムでは、今季ここまで6試合無得点。FWでは古橋、大迫ら実績を残す選手がメンバーから落選し、けがで事実上ぶっつけ本番だった浅野が選ばれたことに、一部では批判の声が上がった。それを背負った上で結果を残した。頼もしい姿にSNS上も一転。「浅野半端ないって。あいつ半端ないって」など、称賛の嵐が起きた。

そんな“雪辱弾”を演出したのは、同じブンデスで戦い、同じ9月に、同じ右膝の内側側副靱帯(じんたい)を負傷したDF板倉だった。浅野が「“内側仲間”だった。(デュッセルドルフの日本協会のリハビリ施設で)2人で、励まし合いながらやっていた」とホットラインに胸を張れば、板倉も「拓磨君が動きだしたのが見えたので、迷いなくいいボールを届けたかった」と喜んだ。

前回ロシア大会は補欠登録だったジャガー。屈辱を乗り越え、カタールで“浅野拓磨の神”への変身を遂げた。ドイツ戦勝利は、まだ見ぬ景色への序章。ドーハでの奇跡は、ここからだ。【横田和幸】

◆浅野拓磨(あさの・たくま)1994年(平6)11月10日、三重県生まれ。四日市中央工から13年広島入り。得点後に両手の爪を立てるジャガーポーズが有名に。J1通算58試合12得点。16年7月にアーセナルに移籍し、シュツットガルト、ハノーバー、パルチザンを経て21年6月にボーフムへ。15年日本代表初選出で国際Aマッチ通算38試合8得点、16年リオデジャネイロ五輪代表。173センチ、71キロ。浅野家四男の弟雄也(25)は広島MF。

◆内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい) 膝にある主要な4つの靭帯の1つ。脛骨(けいこつ)と大腿(だいたい)骨を関節の内側でつなげている。損傷による重症の場合、手術が必要になる時もある。今回の板倉は部分断裂で、より重症だった浅野は、W杯に間に合わせるために手術を回避し保存治療を選択した。