サッカーファンのみなさんは「マネーボール」という言葉をご存じだろうか。野球界では今ではだれもが知っているコンセプトで、米大リーグ・アスレチックスのビリー・ビーン上級副社長(59)がGM時代に導入したものだ。

従来の球界の常識にとらわれず、セイバーメトリクス(データをもとにした統計学的分析)を駆使したチーム編成で、低予算球団を常勝球団に仕立て上げたことから、のちにそう呼ばれるようになった。俳優ブラッド・ピットがビーン氏を演じ、映画化もされたので知っている人も多いかもしれない。

現在、英サッカー界で「マネーボール」を実現させようとしているのが低予算クラブとして知られるバーンズリーだ。選手の給与額等が公表されていないため正確な予算は不明だが、クラブの市場価値を見るとバーンズリーの“小規模ぶり”がよく分かる。

移籍情報サイト「トランスファーマーケット」によると、バーンズリーの市場価値は2633万ポンド(約41億1000万円)で、J1川崎Fとそれほど変わらない。所属するイングランド2部全24チームの中では19番目で、1番高額なボーンマス(1億1241万ポンド==約175億円)の4分の1以下だ。

昨季リーグ21位だったバーンズリーは、今季レギュラーシーズンを5位で終え、17日から3~6位チームで争われるプレミアリーグ昇格プレーオフを戦う。1部昇格となれば、まさにサッカー版マネーボールの結実と言えるのではないだろうか。

バーンズリー版マネーボールの3大要素は(1)スカウティング方法(2)若手選手の積極起用(3)ハイプレスに特化した選手獲得だ。

(1)=バーンズリーの経営規模では全世界にスカウトを配置する余裕はない。そのため、まずデータ上でスカウトすべき選手が満たさなければならない基準を設定。基準を満たしている選手がプレーする試合の映像を、1カ所でまとめて見られるようにした。米ヤフー電子版によると、ポール・コンウェイ共同会長は「各地にスカウトを配置するのは非効率的なので、我々は1カ所で1日に6試合を見ている」と説明している。

(2)=バーンズリーでは23歳を超える年齢の選手と契約することはまれだという。ただそれだとチームにリーダーシップや経験値が不足する。そのため早くからプロになり、若くても経験年数の多い選手に注目している。また実力的に通用しなくなれば、チームの顔として活躍してきたベテランでも放出することにちゅうちょはない。こうすることで健全経営が保たれている。

(3)=バーンズリーのプレーは前線から相手に厳しいプレスをかけ続け、そこからショートカウンターを狙うスタイル。「ハイプレス」を実現できるアスリートタイプの選手を優先的に集めている。またオーナーの1人で、共同会長でもある米国人投資家チェン・リー氏は、他にもオーステンデ(ベルギー)トゥーン(スイス)ナンシー(フランス)エスビャウ(デンマーク)といったクラブを運営。グループ内で「ハイプレス」を共通コンセプトとし、今後はグループ内での移籍も活発化させる見通しだ。

バーンズリーは17年にチェン・リー氏らに買収された。実はリー氏らとともに出資を行い、現在も共同オーナーに名を連ねているのが前出のアスレチックス上級副社長、ビリー・ビーン氏その人なのだ。マネーボールの生みの親のサポートを受けたバーンズリーが、映画のようなストーリーで夢の1部昇格を成し遂げられるか。昇格プレーオフにも注目したい。【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)