22年ワールドカップ(W杯)カタール大会の前取材のために、この約1年間で3度ほどドーハを訪れた。現地では欧州や南米のメディアとも顔を合わせるのだが、少し気になったのが取材時の彼らの質問だ。

特に欧州のメディアは「お酒」について大変興味があるらしい。「W杯ではお酒は飲めるのか?」「もし飲めないのであれば、それに違反したら逮捕されるのか?」。そんな質問を延々繰り返す。へきえきするくらいに。

結局、W杯でも試合の前後にスタジアム周辺でお酒を飲むことができるようだ。それから市内にいくつか設置される「ファンゾーン」でも。お酒が好きな筆者としては歓迎すべきなのかもしれないが、欧州の価値観にカタールのW杯組織委員会側が合わせざるを得なかったようで、何か釈然としないものがある。

そもそもイスラム教国家といっても、その戒律の厳しさは国によって違う。例えば女性の服装でも、ある国では他人からは目しか見えないような格好をしているが、別の国では髪の毛を隠しているだけのような服装の女性もいる。

お酒にしてもカタールはもともと中東の国々の中では“緩い”方で、ライセンスを持っているホテルのレストランやバーでは普通に飲めるし、いわゆるナイトクラブのようなところもある。だから「スタジアムでお酒を飲めるのか?」というような質問を連発している欧州の記者を見ると「ホテルで飲めばいいじゃん」と言いたくなるのだ。

日本には「郷に入れば郷に従え」という素晴らしい言葉がある。「その土地やその環境に入ったならば、そこでの習慣ややり方に従うのが賢い生き方である」という意味だ。せっかく中東で初めて開催される記念すべきW杯なのだから、その土地にあったやり方でW杯を楽しむべきだろう。

筆者がカタールでお気に入りなのは、4輪駆動車で砂漠を爆走し、その後、砂漠でディナーを食べることができるツアー。試合観戦以外にもそういった魅力的なアトラクションはたくさんある。お酒はホテルに戻ってからでいい。

16日にテレビを見ていたら日本代表の西芳照シェフが映っていた。イスラム教国家では宗教的に豚肉を持ち込むことができないため、代わりになるメニューを考案しているとのこと。うなぎを卵で巻く「う巻き」などを検討していると話していた。

自分たちの価値観を押しつけるのではなく、現地のやり方に従った上で自分たちの力を100%出せるように努力、工夫する。自分もこうありたいものだと思った。

【千葉修宏】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「海外サッカーよもやま話」)

W杯の公式カウントダウン時計の前に掲げられた出場国の国旗(2022年3月、カタール・ドーハ)
W杯の公式カウントダウン時計の前に掲げられた出場国の国旗(2022年3月、カタール・ドーハ)