レアル・マドリードは14日、欧州チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝第2戦でリバプールと引き分け、2試合合計3-1で3季ぶりの準決勝進出を果たした。

今季は新型コロナウイルスの影響を受け、準備期間が短い中でシーズンをスタートしたことでケガ人が続出。結果を出すことに苦しみ、欧州CLでは初の1次リーグ敗退かという危機に晒された。

その後、欧州CLで決勝トーナメント進出を果たし、一度は持ち直したかに見えたが、今年に入り、スペイン・スーパー杯でビルバオに敗れ、スペイン国王杯では3部アルコジャノに屈して敗退し、早々に2つのタイトルを失うこととなった。そして今季8敗目を喫した1月30日のレバンテ戦後、批判を浴び監督交代の話題も飛び出す中、ジダン監督は次のように反論した。

「我々は最後までシーズンを戦い続けるに値しているし、私は諦めるつもりはない。ここで取り組んでいる人たちに敬意を払う必要がある。このチームは昨季、リーグ戦に優勝している」と取り乱すことなく冷静になって見守ることを訴えかけた。

このレバンテ戦がターニングポイントとなり、チームはそれ以降、直近のリバプール戦まで一度も負けていない。公式戦14試合11勝3分けと無敗をキープし、好調な状態でシーズンの佳境を迎えている。

チームが2カ月以上負けていない要因として、ジダン監督がケガ人の穴をうまくカバーしてきたことや中盤がうまく強化されたこと、そして得点力不足が解消されつつあることなどが挙げられている。

今季は特にDF陣に問題を抱え、一度もケガをしていないのはメンディのみ。カルバハルはシーズンを通じてケガに苦しみ、セルヒオラモスは1月から負傷続きで少なくとも今月下旬まで復帰できない。そしてバランはリバプール、バルセロナとの重要な3連戦を目前にして新型コロナウイル検査で陽性反応を示し、離脱を余儀なくされた。

そのような状況下、右サイドバックはカルバハルに代わり、本来はFWのルーカス・バスケスが先日のクラシコで今季絶望の怪我を負うまでレギュラーで出続け、攻守に渡りチームに貢献し、その穴を埋めてきた。

センターバックは、チームで唯一“Rマドリード一筋”でプレーするするナチョがセルヒオラモスの代わりを務め、素晴らしいパフォーマンスを見せている。リバプールとの第2戦後には「今季は自分のキャリアの中で最高のシーズン」と調子の良さをアピールした。

そして2019年夏に5000万ユーロ(約65億円)で加入しながら、ずっとその実力に疑問が持たれていたミリトンが、レギュラーのセンターバック2選手を欠くという緊急事態の中、重要な3連戦でナチョとコンビを組み、ようやくその価値を示した。

左サイドバックのメンディは今季最も成長した選手かもしれない。クラブのレジェンドであるマルセロからポジションを奪うと安定感あるプレーを見せ、攻撃ではたびたび起点となってきた。またジダン監督が新たなオプションとして3バックを採用した際は、センターバックでプレーできるポリバレントな能力を備えていることを証明している。

中盤について、ジダンはシーズン序盤こそ試行錯誤を重ねたが、最終的に原点回帰し、欧州CL3連覇を成し遂げた黄金時代を支えたモドリッチ、カゼミロ、クロースに委ねることにした。成功を収めた時代から時間が経過し、中盤の構造の老朽化が不安視されたが杞憂に終わる。3選手はそれぞれ、経験を武器に進化を遂げてきた。

モドリッチは35歳になった今、2018年にバロンドールを獲得した全盛期の姿を取り戻し、期待されて戻ってきたウーデゴールをアーセナルに追いやるパフォーマンスを披露し、攻守に渡り中盤の柱になっている。

カゼミロはチームで唯一替えの効かない選手として中盤の底でプレーし、最近は守備面だけでなく得点面にも磨きをかけている。クロースは変わらず正確無比のプレーを維持し、今季の欧州CLではパス成功数(851本中787本成功、パス成功率92%)で参加選手の中でトップに立っている。またジダンは戦術に応じてバルベルデを先発メンバーに組み込んでいる。

再びアザールが欠場し続ける攻撃陣に関しては最近、ベンゼマ、アセンシオ、ビニシウスの3トップがうまく機能し、得点力不足が解消されていることが高く評価されている。クリスティアーノ・ロナウド退団後、チームの攻撃を牽引し続けるベンゼマは現在、キャリア最高の瞬間のひとつを過ごしている。先日、自己最多となる7試合連続得点を記録し、クラシコではバックヒールショットで先制点を決め、今季の公式戦の通算得点数を25に伸ばしている。

アセンシオは昨季の大半を膝の重傷で棒に振り、今季に入ってもトップフォームを取り戻すのに苦しんでいた。しかし先月のアタランタとの第2戦から4試合連続で得点を記録。特にリバプールとの第1戦では相手の士気を奪うゴールを決め、復調した姿を見せている。

ビニシウスは現在、チームで最もチャンスを生み出す選手となっており、特にアタランタ、リバプール、バルセロナ相手の重要な試合でそのことを証明してきた。相変わらず決定力不足に苦しんではいるが、リバプールとの第1戦ではRマドリード加入後、初の1試合2得点を記録してチームを勝利に導き、クラシコではクロースの決めたFKを誘発し、相手にとって危険な存在であることを改めて知らしめている。

このようにチームが素晴らしい流れを維持しているが、ジダン監督は「我々はまだ何も勝ち取っていない」と度々語り、油断した様子を一切見せていない。

スペインリーグと欧州CLの2冠達成に向け、Rマドリードに残された戦いはあと11試合。そこで懸念されるのは、ジダン監督がこのシーズンの佳境に入り、ローテーションすることなく、ほぼ同じメンバーで戦い続けていることによる選手たちの疲労である。

ジダン監督がバルセロナ戦後に「我々のフィジカル面は限界に達している」と語った通り、その点が最後の戦いに向けた懸念材料となる。今後、ケガ人をこれ以上出さないようにコンディションをどのように調整していくか、そして負傷者がどのタイミングで戻ってくるかが鍵となるだろう。

一方、Rマドリードには他のクラブにはない“経験”という大きな武器がある。リバプールのクロップ監督が第2戦後に「マドリーの経験が今回の対戦をものにした」と敗北を認めたように、ジダンに率いられ欧州CL3連覇を成し遂げた百戦錬磨の選手たちがメンバーに多く残っていること、重要な戦いの勝ち方を知っている選手たちがいることは、このシーズン終盤で苦境に陥った時、間違いなく大きなアドバンテージとなる。

新型コロナウイルスの影響によるタイトな日程の中、Rマドリードはリーガ2連覇および前人未到の14回目の欧州CL制覇を目指し、ラストスパートに入っている。【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)