ラ・リーガ(スペインリーグ)では今季、下部組織に所属する選手たちのトップチームデビューが相次ぎ、スペインメディアはこの状況を「ベビーブーム」と表現している。

考えられる1番の要因として、新型コロナウイルスの感染拡大以降、1年以上無観客開催が続いたことで大きな収入が失われ、多くのクラブが財政難に陥り、十分な補強をできないままシーズンをスタートしたことが挙げられている。

さらに今夏、欧州選手権や南米選手権、東京オリンピック(五輪)などのメジャー大会が開催され、参加選手たちが十分な休みを取れずに疲労を蓄積したまま新シーズンを迎えたため、負傷者が続出していること、そして、新型コロナウイルス感染で欠場を余儀なくされた選手がいることなども理由になっている。

その結果「ベビーブーム」が起こり、これまでスペイン1部20クラブ中11のクラブから、すでに22人もの下部組織の選手たちがトップチームデビューを飾っている。これは近年のシーズンのこの時点では特に多い数字であるとのことだ。中でもレアル・ソシエダード、バルセロナ、ビルバオが下部組織の選手たちを積極的に起用してきた。

Rソシエダードは今季ここまで、スペイン1部20クラブの中で最も多い4人(トゥリエンテス、ロメロ、カリカブル、ロベテ)をデビューさせている。その大きな理由は負傷者が続出しているためだが、そんな状況ながらもリーグ3位につけ、ここまで大成功を収めている。また、リーグ開幕から8節までの先発メンバーの平均年齢が24・1歳と、スペインリーグの中で最も若い。

マジョルカのルイス・ガルシア監督が16日に対戦を控えるRソシエダードについて、「ずっと前からひとつのモデルで取り組んでおり、近年その成果が表れている。トップチームに下部組織出身選手が多数所属し、Bチームは我々がわずか5カ月前まで戦っていた2部に属している。さらにここ数試合、Bチームの選手が多数トップチームデビューを果たしているし、トップチームから一番下のカテゴリーのチームまでが同じスタイルでプレーしている」と印象を述べたことでも分かる通り、Rソシエダードは近年、特に下部組織に定評のあるクラブになっているのである。

メッシやグリーズマンのベテランが今夏チームを離れ、アンス・ファティ、アグエロ、テア・シュテーゲン、デンベレなどが負傷していた中、シーズンをスタートしたバルセロナからは今季、17歳のバルデとガビ、19歳のニコ・ゴンサレスの3人がすでにトップチームデビュー済み。中でもガビは、バルセロナでの公式戦出場がわずか363分間ながら、今月、イタリアで開催された欧州ネーションズリーグ準決勝イタリア戦で、17歳62日でのA代表デビューを飾り、スペイン代表の最年少出場記録を85年ぶりに塗り替え、アンス・ファティやペドリのように、瞬く間にスペインとバルセロナの将来を嘱望される選手となっている。

Rソシエダード同様、下部組織出身選手の多いビルバオからは今季、アギレサバラ、セラーノ、ビビアンの3人がデビューしている。この中でビビアンは今季ここまでにデビューした下部組織22人中最多となる630分間出場している。リーグ開幕時はBチーム登録の選手だったが、初戦からセンターバックとしてレギュラーの座を勝ち取り、トップチームに昇格している。

その他、セビリア、ベティス、カディス、エスパニョールから2人、レアル・マドリード、ビリャレアル、マジョルカ、オサスナから1人がそれぞれデビューしている一方、アトレチコ・マドリード、ラリョ・バリェカノ、バレンシア、エルチェ、セルタ、レバンテ、アラベス、ヘタフェ、グラナダの9クラブからはまだ、ひとりもデビューした選手がいない。

「ベビーブーム」到来は新型コロナウイルスの感染拡大と過密日程が重なったことによる偶然の産物だが、クラブが財産である下部組織の選手たちに目を向けてトップチームにデビューさせることは、将来的に各クラブにとって歓迎すべきものになるだろう。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)