今季も残り3カ月を切る中、スペインにはいまだ3大会を戦い続けているクラブが1つだけ存在する。それは現在、スペインリーグで3位につけ、国王杯では決勝進出まであと1歩と迫り、欧州リーグでも決勝トーナメント2回戦に駒を進めている好調ベティスだ。

2018-19シーズンを10位、19-20シーズンを15位で終えた後、ベティスは昨季、過去にビリャレアル、レアル・マドリード、マラガで指揮を執り、スペインリーグでの経験豊富なペジェグリーニ氏を招聘(しょうへい)した。チリ人監督は特に攻撃面で才能あふれる選手たちがそろうチームを短期間でよみがえらせ、リーグ戦を6位で終えて3季ぶりの欧州リーグ出場権獲得に成功した。

そして今季、昨夏の移籍市場で費やした補強費はDFペッツェッラに投資した350万ユーロ(約4億5500万円)のみで、現在レギュラーの座を確固たるものにしているGKルイ・シルバやDFベジェリンなどを無料で手に入れることができた。一方、今冬はひとりも補強していない。これはペジェグリーニ監督がここまで大成功を収めているメンバーへの絶大な信頼の証しと言える。

ベティスで2年目を過ごすペジェグリーニ監督のシステムは4-2-3-1。昨季同様、フェキルやカナーレスを中心にチームを作り、個々の能力を組織に生かすことを最大の長所としている。高いボール支配率を武器とした攻撃的サッカーを信条とするこのスタイルは、他クラブを応援するサッカーファンにとっても、魅力的なものになっていることだろう。

実際、ベティスは「攻撃は最大の防御なり」と言わんばかりのサッカーを展開している。リーグ戦で首位レアル・マドリード(52得点)に次ぐ48得点を記録している一方、失点は32と10番目に多く守備での不安定さを露呈しており、見るものをある意味、楽しませている。

ベティスが攻撃的サッカーを実行するための大きな武器の1つとして、ボールロスト後の素早いプレスやリカバリーが挙げられる。特に前線の選手たちのオフ・ザ・ボールのハードワークや素早いトランジションには目を見張るものがある。

さらに選手層の厚さも成功の要因となっている。1月下旬の国際Aマッチ期間後、欧州リーグが再開したことで現在、毎週2試合を戦っており、2月のわずか28日間で計8試合、3・5日ごとに1試合と、スペインリーグで最も試合数の多いチームとなっていた。

ペジェグリーニ監督は3大会で結果を出している秘訣(ひけつ)について、「大幅なローテーションを組めており、皆がトレーニングで素晴らしいレベルを維持できている」ことと説明。連戦の中、うまく休みを与えチームをリフレッシュし、どの選手を起用しようとも大幅に戦力を落としていないことを強調した。

実際に先月の8試合、1試合平均6人を入れ替えて戦いながらも、5勝1分け2敗と安定した結果を残している。選手たちの能力や状態をしっかりと見極め、適材適所に配置しているベテラン指揮官の手腕は素晴らしいと言うほかない。

ベティスは現在、04-05シーズン以来17年ぶりとなるクラブ史上2回目の欧州チャンピオンズリーグ出場権獲得に向け、今冬の補強で大幅に調子を上げたバルセロナや、昨季の王者アトレチコ・マドリードに勝ち点1差で猛追されながらもスペインリーグで3位をキープしているだけでなく、国王杯3回目の優勝および欧州リーグ初制覇に向けて順調に進んでいる。

そしてこの後、3日に決勝進出をかけ国王杯準決勝第2戦ラヨ・バリェカノ戦に臨み、6日にスペインリーグ第27節でアトレチコ・マドリード、9日に欧州リーグ決勝トーナメント2回戦第1戦フランクフルト戦との絶対に負けられない“決勝戦”が続く。

スペイン紙マルカが「3大会を生き抜いているベティスの限界がどこにあるのか分からない。攻撃力の高さを誇示し、慌てることなく全ての大会をうまく戦っている」と評価している通り、快進撃を続けるチームがシーズンの最後にどこまでたどり着けるのかが非常に楽しみである。

また、20年前のワールドカップ日韓大会にも参加した40歳のスペインサッカー界のレジェンド、ホアキンが今季限りでの引退を表明しているため、ぜひ彼にふさわしい有終の美を飾って欲しいと思う。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)