昨年12月に欧州チャンピオンズリーグ(CL)・決勝トーナメント1回戦でパリ・サンジェルマンとの対戦が決定すると、地元サン・セバスティアンの誰もがはずれクジを引いたと嘆いたが、久保はその事実を淡々と受け止めていた。
「うちはもともとクジ運が悪いらしい。仕方がないけど勝てない相手ではないと思う。例えば2位通過して、マンチェスター・シティーやバイエルンと当たるよりはつけ入る隙はあると思う。第2戦がホームなので、アウェーでは引き分け以上に持ち込みたい」
■引退のダビド・シルバも帯同
地元メディアが“クラブ史に残る対戦”と銘打った決戦に向け、レアル・ソシエダードは、昨夏のけがで現役引退を表明した同大会の難しさをよく知るダビド・シルバを帯同させ、チームの士気を高めてパリに乗り込んだ。
しかしこの日のチーム状態はベストとは程遠いものだった--。
年明けから公式戦10試合を戦う過密日程の中、直近4試合は全て無得点で勝利なし。4日前にオサスナに敗れたことで、国内リーグは7位にまで後退。キャプテンのオヤルサバル含む、今季最多タイとなる7人の負傷者を抱え、シーズンの最も悪い時期に欧州屈指の強豪とのアウェーゲームに臨まなければならなかった。
対するパリ・サンジェルマンは今年に入り公式戦8試合をこなし、16戦無敗をキープ。1週間前に足首を負傷していたエースのFWエムバペは100%の状態に戻り、欠場者はほとんどいない状態だった。
また、データが全てではないが、両チームのUEFAクラブランキングはそれぞれ38位、4位と大きな差がある。そしてチーム力を測る目安のひとつとなるドイツの移籍情報サイト「トランスファー・マーケット」による選手の市場価値の総額は、Rソシエダードが4億8760万ユーロ(約780億1600万円)であるのに対し、パリ・サンジェルマンは10億300万ユーロ(約1648億円)と2倍以上。
選手個人に目を向けると、久保がチーム最高額の6000万ユーロ(約96億円)である一方、エムバペは1億8000万ユーロ(約288億円)で、ベリンガム(レアル・マドリード)、ハーランド(マンチェスター・シティー)と並び世界トップだった。
Rソシエダードはこのように厳しい条件下、パリまで駆けつけた2000人のサポーターの熱い応援を受けながら、欧州CLにおけるクラブ最高記録である準決勝進出(82-83年シーズン)の再現を目指すべく、フランスリーグ首位チームとの戦いに臨んだのだった。
■公式戦5試合連続の無得点
前半は良い時間を過ごし、久保やアンドレ・シルバ、ミケル・メリーノがゴールを狙うも決定機を欠きスコアレスで終了。後半に入るとパリ・サンジェルマンに流れが大きく傾き、守備に追われる時間が多くなった。そしてエムバペとバルコラに失点を許し、枠内シュートを1本も打てないまま、0-2の敗北を喫した。
これによりRソシエダードは公式戦2連敗の5試合連続勝利なしとなっただけでなく、公式戦5試合連続無得点という、72-73年シーズンの不名誉なクラブ史上のワースト記録に並ぶことになった。
この日の久保個人のパフォーマンスはどうだったのだろうか? 地元紙の評価は賛否両論だった。
エル・ディアリオ・バスコ紙は「前半の出来は素晴らしく、何度もマークを振り払い、(マーカーの)ベラルドにとって悪夢となった。サイドネットに強烈なシュートを放ち、アンドレ・シウバの頭に素晴らしいクロスを入れ、相手ディフェンスの裏にスルーパスを通した。しかし最初の失点の際、エムバペのマークを怠ってしまった」と寸評。ネガティブな要素はあったものの、特に前半チャンスを生み出した点を高く評価し、チームトップタイの4点(最高5点)をつけた。
一方、ムンド・デポルティボ紙は、味方へのチャンスメークやベラルドを凌駕したことを評価しつつも、判断力の悪さや24回を数えたボールロストの多さ、64%というパス成功率の低さ、途中出場のリュカ・エルナンデスとマッチアップした際に何もできなかったことを指摘。その理由として、「疲れているように見えたが、それは出場時間の蓄積によるものだ。カタール(アジアカップ)より戻ってから休んでおらず、3試合連続でフル出場している」と連戦の影響を大きく受けていることを挙げていた。
■トラオレがピッチ外で治療中
また、この試合のターニングポイントとして考えられるのは、トラオレがピッチ外で治療を受けている最中に、CKからエムバペに決められた最初の失点の場面だ。特に久保はエムバペのマークを外したことを地元メディアに指摘され、本人もその責任を感じていた。
「あれは僕のミス。それまでいい試合をしていたのでとても罪悪感がある。1人少なかったので僕がエムバペをマークする必要があった」
久保は試合後にこう悔やんでいたが、アルグアシル監督の考えは違っていた。普段は個人を名指しで糾弾することなどないが、この日は珍しくいら立ちを見せた。
「あの失点は残念だった。それまでは互角に渡り合えていた。1人少ない状態でCKを守るというシチュエーションを相手に与えてはダメだ。トラオレが試合から離れ、1人少なくなったことでチームは試合を落とすことになった。あのような事態が起これば当然、高い代償を払うことになる」
一方、ミケル・メリーノは「エムバペのマーカー(トラオレ)が打撲したのは不運だった。この大会ではわずかなミスも許されない」との見解を示すと、スビメンディは「イマノルが何を言ったかは分からないが、トラオレがピッチ外にいたことでタケがエムバペをマークするという、他の選手が慣れないポジションを務めなければならないというミスマッチが生じてしまった。でもそういったことは起こり得るものだ。アマリがどんな状態だったか見ていないが、何も非難することはできない」と擁護した。
トラオレや久保が最初の失点のきっかけになったかもしれないが、Rソシエダードが475分間無得点の状態が続き、長らく勝てていない事実がある。それはチーム全体の問題だ。来月5日にホームで行われる第2戦まで約3週間、マジョルカとの国王杯準決勝第2戦を含む公式戦4試合が残されている。その間、皆が再び一丸となり、今の悪い流れを断ち切ることが最重要課題となるだろう。【高橋智行通信員】(サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」/ニッカンスポーツコム)