22年W杯カタール大会(22年11月21日開幕)まで、あと1年となる。欧州では強豪国が次々とW杯切符を手にしている。

中東初となる大会は、酷暑を避け、通常の6~7月ではなく異例の時期の開催となる。スタジアムの準備状況やカタール国内の盛り上がりはどうなっているのか。現地入りした、日刊スポーツ記者によるリポートを3回にわたってお届けする。

第1回は大会アンバサダーで元オーストラリア代表FW、現役時代は日本の天敵としてしられたティム・ケーヒル氏(41)が登場。カタールサッカー界の“虎の穴”アスパイア・アカデミーを案内してもらった。

2002年W杯日韓大会前に日本代表の力に疑問符がついていたのと同様、開催国としてW杯初出場を果たすカタール代表がどれほど戦えるかは未知数だ。だが、最近までカタール1部アルサドを率いていた現バルセロナのシャビ監督は「代表は間違いなく強くなっている」と断言する。

国民からの期待も、日に日に大きくなっている。実際、カタールは19年アジア杯決勝で3-1で日本を破って初優勝したアジア王者。実はその時のメンバー23人中14人、先発11人中8人が“虎の穴”アスパイア・アカデミー出身者だ。

今回、同アカデミーの「チーフ・スポーツ・オフィサー」を務めるケーヒル氏の案内で施設に潜入。カタールサッカー躍進の秘密について取材した。ここはスカウトやセレクション(入団テスト)を通じて集まったU-13~18年代、日本でいえば中高生世代の選手たちが寮生活をしながら勉強とスポーツに励む場所。学費もスポーツにかかる費用も無料だ。

ケーヒル氏 才能ある子供の数でいうと、カタールはオーストラリア(約2500万人)や日本(約1億2500万人)に比べて人口自体が少ない(約280万人、うちカタール人約30万人)。だから選手発掘が重要なんだ。その上でここで子供たちと長い時間を過ごすことで、普段からどのような時間の使い方をしているのか、どのように技術を習得しているのか、人間的により細かい部分まで知ることができ、それを指導に反映できる。

同氏は1人1人に対してのきめ細やかな指導に加え、アカデミーが代表チームの強化に果たす役割についても強調した。カタールのフェリックス・サンチェス監督はバルセロナの下部組織出身でアスパイアのコーチから代表チームの指揮官になった人物だ。

ケーヒル氏 ここで学んだ同じ顔ぶれの選手たちが、同じフェリックス(サンチェス氏)というコーチのもと、同じ哲学で代表チームでもプレーしている。そういうシステムが出来上がっているんだ。

もちろん施設そのものも「世界一」とケーヒル氏は言う。最新のトレーニング機器や医療設備、サッカーやそれ以外の種目の練習場、もちろん勉強のための教室や実験室も無数にある。さらに驚かされるのが国際サッカー連盟(FIFA)が公認している屋内のピッチの存在。7つの屋外ピッチに加え、同じ大きさのフィールドがそのまま室内にあるのだ。

ケーヒル氏は日本が2-1でオーストラリアに勝利したW杯アジア最終予選の10月12日の試合(埼玉スタジアム)をテレビで観戦したという。「日本にとって良い結果だったと思う。最後は欧州でプレーする選手の数が差になってあらわれたかな」。

代表チームが強化され、カタール国内でのW杯への盛り上がりは想像以上に高まってきている。それとともに、ケーヒル氏は「良いライバル関係」だという日本とオーストラリア両国のW杯出場を願っている。【千葉修宏】(つづく)

◆アスパイア・アカデミー カタールのスポーツ選手育成を目的に04年に設立された、ハリファ国際スタジアムに隣接する育成機関。サッカー以外に陸上やフェンシング、卓球など他競技のプログラムもあり、東京五輪の男子走り高跳び金メダルのムタズエサ・バルシム(30)も卒業生。