ペレの訃報に、映画「勝利への脱出」を思い出す。81年の米国映画で、封切られてすぐに見に行った記憶がある。主演はペレと米俳優シルベスター・スタローンなのだが、脇を固めるサッカー選手が豪華だった。

78年のFIFAワールドカップ(W杯)優勝メンバーで後に清水エスパルスや横浜マリノスで監督も務めたアルゼンチン代表MFアルディレス、66年W杯優勝のイングランドの「ザ・キャプテン」DFボビー・ムーア、74年W杯3位のポーランド代表MFディナらが世界の技を披露した。

当時、ほとんど海外の選手を見る機会がなかったから、映画の中でのプレーも鮮烈だった、特にペレは引退したとはいえ、キレッキレ。ラストの美しいオーバーヘッドシュートは、それだけでも映画の価値を高めたと思えるほどだった。

定番の「脱出物」とサッカー映画を足したような作品で、十分に楽しめた。第2次世界大戦中にドイツの捕虜になった連合軍兵士のチームとドイツ代表が試合をするという内容だった。

もとになった実話を知ったのは、だいぶ後。舞台は第2次世界大戦下のウクライナだった。モデルとなったのは、捕虜になった強豪ディナモ・キエフの選手を中心としたチームとドイツ軍チームとの試合だ。

ドイツ軍は軍の威信を守るために、捕虜たちに負けることを強要する。負けなければ、何かしらの報復があると脅迫するのだ。しかし、誇り高き選手たちは母国とサッカーを守るため、これを拒否して勝利する。勝った選手たちは強制収容所に送られ、銃殺されるという痛ましい話だった。

今年2月、ロシアのウクライナ侵攻で、この試合のことを思い出した。ペレも当然、モデルとなった試合のことは知っているはず。心も痛んでいるだろうと思っていたら、インスタグラムでロシアのプーチン大統領に侵攻を止めるように呼びかけていた。

ペレは「Love」を合言葉のようにしていた。世界中の人間が国や人種や宗教を超えて、愛し合うことを求めた。サッカーを、スポーツを、そして何より平和を愛していた。

偉大な「チームメート」の死を、GK役だったスタローンも悼んだ。「安らかに眠ってください。すばらしい人でした」。

サッカーを通して、スポーツを通して、世界が平和であることは、ペレの望みでもあった。病床にあったこの1年、どんな思いで世界の状況を見ていたのか。「Love」。今こそ、世界中がペレの偉大さとともに、その心を再確認する時なのかもしれない。

(敬称略)【荻島弘一】