サッカーでポルトガル2部オリベイレンセFWカズ(三浦知良、56)が、緊急帰国した。父の納谷宣雄さん(享年81)の死去から一夜明けた9日午前、ポルトガルからの航空機で羽田空港に到着。父への思い、生前の最後のやりとりなどを明かした。納谷さんの通夜は11日、葬儀は12日から、静岡市内で営まれる。

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カズはさみしそうにつぶやいた。大きなスーツケースを複数積んだカートを押し、到着口から姿を見せると、「自分も覚悟していたんでね…」と目を伏せた。

覚悟はしていた。ポルトガルでのシーズンを終えて帰国した6月。父の病状にについて「(余命)2カ月から4カ月」と聞かされていた。今季もポルトガルでプレーすることは決意していた。渡航3日前の7月12日には、父に会うため静岡県へ向かったという。

「帰る時、おやじに車で静岡駅まで送ってもらった。握手して別れて…。これが最後かな…と思って」

納谷さんは、入院はせず自宅で療養。積極的な治療も受けなかったという。9月に入って病状は悪化。亡くなる2日前、母の由子さんからカズに「(納谷さんが)会いたいと思うから、帰ってきてくれないか」と連絡があったという。帰国の日時を決めた矢先の8日朝、悲報が届いた。「生前に最後、会いたかったけどね。会えなかったな…という感じです」。2カ月前の握手が、最後の父のぬくもりとなった。

カズに大きな影響を与えた存在だった。納谷さんは実業家として、日本とブラジルを行き来し、ブラジルから装飾ひも「ミサンガ」を日本に持ち込み、1980年代後半から大流行させたことでも知られる。70年のW杯メキシコ大会を観戦し、ブラジル代表の映像を持ち帰って愛息に見せた。当時の日本では誰も手に入らない映像。静岡学園高を中退し、15歳でブラジルへ渡る決意をしたのも、そのビデオがきっかけだった。

プレーを見守り続けた。少年サッカークラブチーム「城内FC」(静岡市)は、弟で22年に死去した義郎さん(享年76)が指揮。少年時代に兄の三浦泰年氏(現鈴鹿監督)とプレーする姿を見続けた。ブラジルはもちろん、92年の日本代表のダイナスティ杯初優勝時など、国内外の試合のスタンドには、息子を見守る姿があった。横浜FC在籍時には、練習場に姿を見せたこともあった。

最後の別れは出来なかったが、納谷さんが亡くなるまでカズは現役であり続けた。今季もポルトガルで3試合でベンチ入りし、出場も果たしている。プレーし続ける姿を見せられたことについてカズは「そう(親孝行)ですかね…。それはそれで良かったんじゃないかな」と笑った。

<葬儀日程>

▼通夜 11日午後6時から、静岡市駿河区新川2丁目5番45号、あいネットホール新川

▼葬儀 12日午前9時から同所

▼喪主 長男三浦泰年氏