涙の6冠。競泳女子の池江璃花子(18=ルネサンス)が、50メートル自由形で秘技ノーブレス(息継ぎなし)をさく裂させて24秒53の大会新記録で優勝した。これで1大会での金メダル数は日本勢単独最多の6個。1970年、74年大会で競泳女子の西側よしみが獲得した5個を抜き、アジア女子としても最多。今後は本命の100メートルバタフライで世界記録保持者サラ・ショーストロム(25=スウェーデン)と合同練習を検討していることが判明。今秋以降に相手の拠点であるトルコを軸に日程調整している。

指先をそろえて、涙をふいた。池江は、スタンドの母美由紀さん、三木コーチらが笑顔で手を振る姿が目に入った。涙があふれて止まらない。「応援してくれる人の顔を見て安心した」と、18歳の顔を見せた。

競泳最終日、50メートル自由形。21日の50メートル背泳ぎで世界記録の26秒98を出した劉湘(中国)と一騎打ち。「背泳ぎの人に負けるのは悔しい」。25メートルからトップギア。息継ぎする相手を尻目に、ノーブレスを敢行。「絶対に呼吸しちゃだめだ」。パンパシフィック選手権から16日間で25レース目。最後の最後で負担がかかる秘技で、わずか0秒07差の勝利を呼んだ。

1大会での金メダル数は日本勢最多の6個。第1回の51年ニューデリー大会から67年の歴史で、日本勢唯一無二。金6、銀2は出場全種目メダルだった。

強くなるための努力を、惜しまない。2月、かみ合わせを良くするために、歯列矯正を始めた。瀬戸らも行っているもので、目立ちにくい透明のワイヤをつける。もともと歯並びはきれいだが、かみ合わせは競技力の向上につながるため、あえてチャレンジ。取り外し可能とはいえ、年内は2週間に1度は歯医者に通って、食事以外は常につける。そんな不自由さも水泳のため、地道に続けている。

アジアで強さを見せて、今後は世界女王を追う。今秋にもショーストロムとの合同練習を行うプランが判明した。世界女王の拠点であるトルコを候補に、日程が合えば、相手の懐に飛び込むことを計画中だ。本命の100メートルバタフライは今季世界ランク1位の56秒08を持つ。だが世界記録までは0秒60差。流動的な部分はあるが、実現すれば、「サラさんしか見ていない」という最大の壁を自ら「体感」できる夢プランだ。

来年は、世界選手権韓国大会が最大の目標になる。18歳の夏、東京からジャカルタを駆け抜けてタフガールになった。「6冠できると思わなくてすごくうれしい。でもまだアジア。これを来年の世界選手権や東京オリンピック(五輪)にどうつなげられるか」。アジア女王から世界へ。今後は打倒世界女王に向けて、動きだす。【益田一弘】

◆池江璃花子(いけえ・りかこ)2000年(平12)7月4日、東京都生まれ。15年世界選手権で中学生として14年ぶりに代表入り。得意は100メートルバタフライ。16年リオ五輪決勝進出、今年8月のパンパシフィック選手権で主要国際大会初優勝。171センチ、60キロ。