日本の伝統が惨敗で途切れた。世界陸上北京大会開幕を告げる22日の男子マラソンで、藤原正和(34=ホンダ)が2時間21分6秒で21位、前田和浩(34=九電工)は2時間32分49秒で40位。エース格の今井正人(31=トヨタ自動車九州)を故障で欠く中、99年セビリア大会からの同種目日本勢連続入賞が「8大会」でストップした。

 瀬古利彦氏(59)は、現状のままでは来年のリオデジャネイロ五輪はおろか、5年後の東京五輪も手遅れになると危機感をあらわにした。

 こんな遅いペース(最初の5キロは16分9秒)なのに、20キロ地点で遅れるのは寂しい。藤原、前田より格下の選手もたくさんいた。中間で遅れるほど力がないとは思わないが、戦わずして負けたね。日本代表が、1番強い選手が、これではリオ五輪も赤信号になる。

 優勝候補だった世界記録2時間2分57秒を持つキメット、自己記録2時間3分23秒のキプサング(ともにケニア)は途中棄権。暑い夏のレースは速ければ、必ずしも勝てるわけではない。これを見れば、日本人だってメダルをとれるんだ。

 今のままでは5年後の東京五輪に向けても、手遅れになる。トラックからマラソンに慣れるまで3年はかかる。今、1万メートルや駅伝の若い選手を、日本陸連が「オレと心中しよう」という熱意でマラソンに挑戦させないと。今大会にトラックで出場する大迫、村山兄弟、設楽らをレース直後につかまえて、説得して、マラソンに仕向けるぐらいでないと間に合わないよ。

 ただ日本陸連の強化方針もブレている。昨年春にナショナルチーム(NT)が発足した。五輪、世界選手権の代表はNTが優先的に選ばれ、NT以外の選手が即時内定をとるには派遣設定記録=2時間6分30秒以内が必要だった。(日本記録は2時間6分16秒)。

 私は今年3月、日本陸連の理事会で「例えば(NT外の)学生が2時間6分31秒を出しても(世界大会の)代表に選ばないのか」と質問したが、規則通りということだった。しかし2カ月後の5月、NTが代表に優先的に選ばれる利点がなくなった。NT外の選手もしゃにむに2時間6分30秒以内を目指す必要はなくなったわけだ。

 2時間6分30秒を切る選手は誰もいないかもしれない。ただこのタイムを掲げていれば、力をつけるために海外レースに挑戦する選手も出てきただろう。一度掲げた方針を転換してハードルを下げた上で、この結果ではあまりにも寂しい。このままでは日本のマラソンはどこかにいっちゃうよ。