山県亮太(25=セイコーホールディングス)が決勝で追い風0・2メートルの条件下、日本歴代2位タイの10秒00をマークした。

 実は太公望。山県は昨年末、広島市の実家に帰省すると家族と釣具店へ向かった。釣りざおとルアーを購入し、大みそかに島根・浜田市まで行き、築地市場なら1キロ3000円以上で取引されることもある高級魚「あこう(キジハタ)」を釣り上げた。年明けの1月3日にも知人の船で沖へ出て、約45センチのイシダイを釣った。そのまま船上で、16年に広島陸協から表彰された際、副賞に希望してもらった出刃包丁でさばいた。

 「反応時間とか競技にも生かせますよ。来た! みたいなのもそうですし。釣りでボーッとしている時間は競技のことを考える。体の使い方とか。いろいろ浮かんでくるんです」

 そんな釣りを教えてくれた父浩一さんを1度だけ恨んだことがある。小学校低学年時。大きなクロダイがヒット。陸へ揚げるため、父にさおを託した。しかし、用意していた網を使わず、重みに耐えきれずに釣り糸が切れ、人生初の大魚は目前で逃げていった。あれから15年以上。浩一さんは「あの時に父さんが捕ってくれなかったから、今でも腹が立つと、冗談めかして言われます」と苦笑いする。山県家の笑い話の1つである。【上田悠太】