東京国際大のヴィンセント・イエゴン(2年=ケニア)が「花の2区」に新たな歴史を刻んだ。

歴代5位の14人抜きで1時間5分49秒の区間新。昨年の東洋大・相沢晃(旭化成)が樹立した大記録を8秒、塗り替えた。箱根デビューの昨年も3区で従来記録を2分1秒更新。将来、母国の英雄エリウド・キプチョゲが持つ男子マラソン世界記録超えを狙う留学生が、まずは2年連続の区間賞に輝いた。

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異次元の速さだった。補欠から、やはり往路最長区間に投入されたヴィンセントは、トップと45秒差の14位でタスキを受けた。187センチの長身が、力強く幅あるストライドで加速する。6・8キロ付近。まず2位集団に追いついたが目もくれず、各大学のエース級8人をわずか5秒、15歩で抜き去った。9・2キロでトップの東海大もかわすと、あとは1人旅だ。歴代5位の14人抜き(関東学連含む)で戸塚中継所に達し「良かった」と涼しい顔で言った。

2位に59秒差をつけ「狙っていた通り」の区間賞を獲得。昨年の相沢がたたき出した、箱根駅伝100年で初の「5分台」1時間5分57秒を塗り替えた。09年モグス(山梨学院大)の同6分4秒を11年ぶりに超えた大記録だったが、ヴィンセントは8秒上回った。その相沢から「前半の貯金が生きた」と称賛された平地での14人抜きで翌年に更新し、解説の瀬古利彦氏も「まさか1年で破られるとは…」と驚くしかなかった。

倉田理事長によると「来日前は軍隊の指揮官を目指していた」という規律を重んじる男。学校方針で留学生は必ず日本人と相部屋になる中、まじめで時間を守るヴィンセントは大人気。その姿勢は練習と結果に表れ、昨年は3区を史上初の59分台(25秒)で走った。注目の今年は9月の日本学生対校選手権でかかとを痛めて離脱。11月上旬の全日本大学駅伝は出場できなかったが、下旬の記録会で復帰して1万メートルの自己ベスト27分38秒48をマーク。規律にのっとった復帰プランを描き体現し、今年の箱根最速となった自信で走り抜いた。

レース後は同僚ムセンビの通訳で「マラソンを走りたい。1分でもマラソン(世界)記録を破りたい」。その2時間1分39秒は母国ケニアが誇るキプチョゲが持つ。破る自信はあるか聞かれると「夢だけど、自信を持ってますよ」。昨年、ハーフマラソン換算では世界トップ級の58分台で箱根路を駆けた怪物が、また世界へ近づいた。【木下淳】

 

◆ヴィンセント・イエゴン 2000年12月5日、ケニア生まれ。チェビルベルク中高から19年4月に「言葉と練習方法を学ぶため」来日。昨年の3区は森田歩希(青学大)が保持していた区間記録1時間1分26秒を2分1秒更新。東京国際大史上最高の総合5位に貢献した。好きな和食は牛丼。愛称ヴィンちゃん。究極の目標は「世界平和」。68キロ。血液型AB。