前回大会2位の創価大の嶋津雄大(4年)が、4区で6人抜きの快走で区間賞を獲得した。11位でタスキを受けると先行する選手を次々と抜き去り、18キロすぎに4位に浮上。中継所の手前で帝京大にかわされたが、5位でタスキを渡し、往路8位の原動力になった。視力にハンディを抱えながら、4年間で日本人エースに成長。3度目の箱根路で集大成の走りを見せた。

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信条の『心で走る』の真骨頂を発揮した。嶋津は11位でタスキを受け取ると、ハイペースで駆けだした。「もっと前に」。それだけを考えて、限界を超えた限界に挑み、ライバルを次々と抜き去った。12キロには優勝候補の駒大も。18キロすぎに抜いた帝京大に最後はかわされたが、苦戦のチームを5位まで浮上させた。

20年は10区で区間新記録。昨年は4区で2番手から首位の東海大を逆転してトップに立ち、初の往路優勝の流れをつくった。「僕はいつも心で走っている。最後も気持ちを振り絞って走り切れた。他の大学を抜くたびに力をもらった」。走り終えた嶋津の笑顔は充実感に満ちていた。

失明の可能性もある「網膜色素変性症」で視力が弱い。ハンディを乗り越えられたのは応援の力だと断言する。走るたびに全国からファンレターが届いた。一番多かったのが「自分も病を抱えているが、嶋津さんの走りを見て勇気をもらった」という声。「手紙を読んでさらに頑張らないと、と思った」と振り返った。

暗くなると周りがよく見えない。夜のレースでは薄暗いアップ会場に苦心していたが、最近は室内トラックの使用を認められたり、ライトを胸に付けて走る特別許可も出た。「箱根の走りを通して、多くの人に自分の病を理解していただき、支えてもらっている」。そんな感謝の気持ちもエネルギーに変えた。

反発力の強い厚底シューズが主流だが、従来の薄底を愛用している。「一番走れるシューズで走っているだけです」。周囲に流されない意志の強さも成長の原動力。2年時に休学期間があるため卒業は1年先になるが、将来も実業団で陸上を続ける。レース前には「オリンピックも全力で目指しますが、自分の場合は目の状態によってはパラリンピックもある」と話していた。今度は『心の走り』で世界への道を切り開く。【首藤正徳】

◆嶋津雄大(しまづ・ゆうだい)2000年(平12)3月28日、東京都町田市生まれ。町田市立堺中入学後に陸上長距離を始め、都立若葉総合高時代に都駅伝1区で2年連続区間賞。青梅マラソン優勝。1万メートルの自己ベストは28分14秒23。趣味は音楽、小説。文学部人間学科4年。170センチ、55キロ。