羽生結弦(22=ANA)は今季のプログラムに、ショートプログラム(SP)でショパンのピアノ曲「バラード第1番」、フリーで笛や鼓の音が入る和風の「SEIMEI」を選んだ。SPは2季ぶり3度目、フリーも2季ぶり2度目。五輪シーズンに2つとも再演したのは、92年アルベールビル五輪金メダリストのヴィクトール・ペトレンコ(EUN)ら数人しかいない、異例の選択となった。

 両方2度ずつ世界最高得点を出した相性のいいプログラムとはいえ、ジャッジは見飽きないのか。その疑問にブライアン・オーサー・コーチ(55)は、はっきり「ノー」と答えた。「批判はあるだろうし、誰もが新しいプログラムを見たがるのは普通」とリスクを認めつつ、特にフリーについては「2年前に出会った時に、五輪にふさわしいと思っていた」という。「もらった時期が早過ぎたからこそ、もう1度やるぜいたくが許される」。以前よりジャンプを含め難度は上がっている。2年間の成長が、おのずとレベルを引き上げ「初見であってもなくても、誰もが引き込まれるはず」と話す。

 羽生は再演の理由を「滑っていて、無理なくその曲にとけ込める」からと説明する。慣れるまでの過程を省き「演技そのものを習熟させたものにしたい」という狙いもある。新鮮さより、深みの追求を優先した。

 4月、地元仙台で荒川静香さんとともに、2人の五輪金メダルの記念碑設置式典に臨んだ。碑には、トリノ五輪のフリー「トゥーランドット」で荒川さんがイナバウアーをした姿、ソチ五輪SP「パリの散歩道」で羽生がフィニッシュポーズを決めた姿がガラスに刻まれていた。その前に立ち「僕らの演技、音楽、そういった記録はいつまでも後生に残り、歴史として語り継がれるのだと感じました」と感慨深く話した。「トゥーランドット」も「パリ-」も2度目の再演だった。心地よく、自分らしく滑れる曲で自信を持って、五輪シーズンに臨む。【高場泉穂】(この項おわり)