私が高校野球を担当したのは80年代後半。剛腕投手が登場すると、スタンドでプロ野球のスカウトを探した。彼らが手にするスピードガンに表示される球速を聞き出すためだ。当時、140キロをマークすると関係者は一様に驚いた。私はその投手を「怪物」という表現で記事にした。

あれから30余年。計測位置などでスピードガンの表示には差があるとはいえ、今は怪物だらけである。夏の甲子園を中継するNHKのテレビ画面に、1球ごとに表示される投手の球速を見ながら思った。調べてみると表示は2000年からで、04年から甲子園球場のスコアボードにも計測値が出るようになった。

プロ野球は80年代から表示していたと記憶している。高校野球では「スピードを競うのはふさわしくない」などの理由で採用されていなかったが、98年に春夏連覇した横浜の松坂大輔が、プロ野球のスカウトのスピードガンで151キロを計測。世間の関心の高まりが追い風になり、風向きが変わった。

近年は150キロ台を出す高校生も珍しくなく、大谷翔平や佐々木朗希は160キロ台を記録した。高速化の急カーブは、トレーニング方法の進歩や栄養などの影響もあるが、試合で球速を直接確認できるようになった投手が、スピードをより意識するようになり、具体的指標にしたことも大きな要因ではないだろうか。

大リーグで活躍する菊池雄星は高校時代に155キロを目標に掲げ、それを達成するために筋トレの目標値も設定していたという。甲子園での記録は154キロ。大谷翔平の目標は160キロ台。今年1月、日本スポーツ学会大賞の授賞式で、母校の花巻東の佐々木洋監督は「目指したから出た数字」と語っていた。

今月9日、エンゼルスの大谷翔平が10勝目を挙げて、ベーブ・ルース以来104年ぶりに「2桁勝利&2桁本塁打」の偉業を達成した。160キロという目標を達成して、能力の限界点を突き破った高校時代の経験と自信が、成長の礎になっているのだろう。

炎天下、ひたむきに白球を追う球児、スタンドのむせかえるような熱気、そして敗者の涙……高校野球は時間が止まったように変わらない。しかし、選手たちは時代とともに進歩しているのだ。夏の甲子園をテレビで見ながら、そんなことを考えた。【首藤正徳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「スポーツ百景」)