得点を確認し、天を仰ぐ坂本。右は中野コーチ、左はグレアム充子コーチ(撮影・前田充)
得点を確認し、天を仰ぐ坂本。右は中野コーチ、左はグレアム充子コーチ(撮影・前田充)

まるで次々と出てくるぜいたくなフルコースの料理を見ているようだった。ミラノ・コルティナ五輪フィギュアスケート女子フリーは、選手たちの個性と演技が実に色とりどりで、最後は見どころ満載のドラマを見終わったような感動で、順位をつけるのがためらわれるほどだった。

金メダルのアリサ・リュウのはじけるような演技は圧巻だった。緊張と重圧の大舞台をとことんエンジョイする姿には、陽気な性格と開放的な米国の文化が溶け込んでいた。ショートプログラム(SP)首位で最終演技者として登場した17歳の中井亜美は、再び見事なトリプルアクセルを決めて銅メダル。無欲、恐るべし。思わず拍手した。

私の胸に一番刺さったのがアンバー・グレン(米国)の不屈の演技だった。24年のグランプリファイナルを制した優勝候補は、SPで最後のジャンプに失敗して13位。絶望的な顔で号泣した。金メダルはおろか表彰台の可能性もほぼなくなった。それでも完璧なトリプルアクセルを決めてフリー3番目の高得点で5位入賞。強い心の物語にジンときた。

実は今回、彼女にひそかに注目していた。近年の女子は10代の小柄な選手たちが席巻していた。14年ソチ大会から3大会の金メダリストの年齢は17歳、15歳、17歳。そんな中、グレンは26歳での初出場だった。しかもこの競技では大柄な167センチの体で、今大会2度もトリプルアクセルを決めてみせた。メダルには届かなかったが、20代後半でも十分世界で戦える。そんな一石を投じてくれた。

女子フリーで演技し、ガッツポーズを繰り出すアンバー・グレン(ロイター)
女子フリーで演技し、ガッツポーズを繰り出すアンバー・グレン(ロイター)
女子フリーで演技するアンバー・グレン(撮影・前田充)
女子フリーで演技するアンバー・グレン(撮影・前田充)
フィギュア女子フリー アンバー・グレン(左)は高得点を出して大喜び(ロイター)
フィギュア女子フリー アンバー・グレン(左)は高得点を出して大喜び(ロイター)

前回北京大会は個人資格で出場したロシアのアンナ・シェルバコワが、五輪女子初の4回転ジャンプをフリーで2本決めて金メダルを獲得した。新たな時代に突入したが、坂本花織は技の質を徹底的に磨き抜いて、大技を超える完成度の高い演技で前回の銅を上回る銀メダル。高難度ジャンプだけではない、美と演技力を競うフィギュアのもう一つの魅力を際立たせてくれた。まだ25歳。第一線を退くのがもったいない。

銀メダルを見つめる坂本(撮影・前田充)
銀メダルを見つめる坂本(撮影・前田充)
女子フリーの演技を終え涙する坂本(手前)を抱きしめる中野コーチ(撮影・前田充)
女子フリーの演技を終え涙する坂本(手前)を抱きしめる中野コーチ(撮影・前田充)
女子フリーで演技する坂本(撮影・前田充)
女子フリーで演技する坂本(撮影・前田充)

日本女子は五輪で初めて2人が表彰台に立った。フリー、SPでほぼ完璧な演技を見せた千葉百音は、表彰台にわずか1・28点及ばず4位。「さらに強くなって戻ってくる」。20歳の力強い涙目に、エースが去っても続く、日本の明るい未来を見た気がした。【首藤正徳】

女子フリーの順位確定を待つ間、アンバー・グレン(右)に肩を抱かれる千葉百音(共同)
女子フリーの順位確定を待つ間、アンバー・グレン(右)に肩を抱かれる千葉百音(共同)