東京オリンピック延期決定から1年が経過した。コロナ禍でのオリンピック・パラリンピック開催には、今もさまざまな意見がある。

ひとつ言えるのは、東京2020大会は確実にこれまでのオリンピック・パラリンピックとは違う形になるということ。言い方を変えれば「新しいやり方の始まり」となる。


リオデジャネイロオリンピックでの筆者
リオデジャネイロオリンピックでの筆者

それは選考会も、同じことだ。各競技でコロナ対策を施した上で、東京五輪代表選考レースが再開されている。

記憶に新しいのは、競泳の池江璃花子選手の復活だ。病気を克服して五輪切符を獲得した彼女の活躍には、日本中、世界中が感動し、その"生き様"に誰もが感銘を受けたに違いない。

そんなコロナ禍のスポーツ観戦で、メリットになったこともある。私の専門種目であるトライアスロンは、これまで大きな国際大会以外はリアルタイムで見る機会が少なかった。それが無観客が主流となる今、昨シーズンからレースのYouTubeでのライブ配信がはじまった。昨年11月に開催された日本トライアスロン選手権は、現在3万2000回以上再生されている。選手にとって、これはとてもありがたいことだ。

トライアスロンはどちらかと言えば、自らがやって楽しむ“Doスポーツ”が主流となっている。私としては、そこにプラス、見て楽しむスポーツになってほしいという願いがある。

現地での声援はもちろん力になるが、いつでもどこでも見られるYouTubeを通してトライアスロンをより多くの方々の目に触れていただく機会ができ、魅力を知っていただけることはとてもうれしく思う。

私自身も最近、ライブ配信で新たに興味を持ったスポーツがある。それは陸上競技の50キロ競歩だ。11日に石川で行われた日本選手権を観戦した。

50キロを3時間30分台で「歩く」競技。フルマラソンの42・195キロなら約3時間、といえば、その異常な速さがイメージ出来るかもしれない。日本競歩界は世界でもトップクラスで、オリンピック代表選考争いも熾烈(しれつ)だ。

陸上選手だった私は、故障をきっかけにトライアスロンに転向した。競歩の選手には同じような理由で長距離から転向した選手が多い。だから少なからず共感できる部分がある。


50キロ競歩東京五輪代表を内定させ、感極まる丸尾(撮影・前田充)
50キロ競歩東京五輪代表を内定させ、感極まる丸尾(撮影・前田充)

そしてこの大会では、契約メーカーが同じで以前からひそかに応援していた丸尾知司選手が優勝し、東京五輪最後の1枠を勝ち取った。これまで「あと1歩」という印象が強かっただけに、代表決定の瞬間は身震いが起こるくらい鳥肌が立ち、感動した。

ゴール後、涙しながらコースに深々と頭を下げた丸尾選手の姿を見て、オリンピックに対する強い思いと温かい人柄が伝わってきた。口から出たのは、オリンピックに出場できる喜びより、「感謝」を表す言葉の数々だった。

私も2016年リオデジャネイロ五輪の際、4月の最終選考レースで内定基準をクリアした。スタートラインに立った時、心から感謝の気持ちがあふれたことを今でも鮮明に覚えている。

実力、コンディション、メンタリティ、そして運。全てのことが重なり合い、生み出されるリアルも、スポーツの良さだ。

スポーツの価値は、単に頂点を決めるだけでなく、こうした人の心を動かす、なにものにも代え難い感動だと私は思う。

コロナ禍でさまざまな変更、対応を余儀なくされているスポーツ界だが、こんな状況だからこそ見いだせる「スポーツの力」を信じたい。自身でやることの感動、アスリートの激戦を観ての感動、さまざまな感動を、スポーツを通して感じていただきたい。

トライアスロンもいよいよ国際大会が再開され、選考に関わるレースがはじまる。4月24日には広島・廿日市市でアジア選手権が開催される。

選手それぞれの思いが形となる時だ。レース前後の選手の表情や、大一番でのレース展開にもぜひ注目して見ていただきたい。(加藤友里恵=リオデジャネイロ五輪トライアスロン代表)

◆加藤友里恵(かとう・ゆりえ)1987年1月27日、千葉県生まれ。銚子西高、城西国際大では陸上の中長距離選手。2010年、23歳でトライアスロンに転向。2016年、五輪最終選考レースのITU世界トライアスロンシリーズ(ケープタウン)で8位入賞し、リオデジャネイロ五輪代表入り。2020年限りで第一線を退く。161センチ。