北京で行われた冬季五輪は、高い競技レベルのパフォーマンスや世界最高峰の技の競演に感動させられた。と同時に、競技以外でも心打たれるシーンが多かった。

テレビなどでもたびたび取り上げられるのが、スノーボード女子ビッグエアでの岩渕麗楽だ、最後のトリックで女子初の大技に挑戦したものの失敗。その挑戦を他国の選手たちがたたえ、ハグで迎えた。国を超えた心温まる場面だった。

カーリングの選手たちが試合後に対戦相手と抱き合う姿も、印象的だった。互いに認め合い、健闘をたたえ合う。選手の笑顔ともに、そんな「カーリング精神」にひかれた人も多かったはずだ。

他の競技でも選手たちが国境やチームを超えて触れ合う姿が目立った。スキーでも、スケートでも、選手たちの互いを思う心が見えた。素晴らしい結果に拍手を送り、抱き合う姿がテレビ画面に何度も映し出された。

SNSの発達で、選手同士のつながりは強くなった。大会で知り合った他国の選手と大会後も連絡をとる。ケガをすれば励まし合う。病魔に倒れた競泳の池江璃花子を世界が支援したように。

五輪出場権を得るために国際大会が増えたことも、選手たちの関係を密にしている。各競技のW杯やプロツアー、長い遠征の中で毎日のように顔を合わせ、時には競技の話もする。友情が深まるのは当然のことだ。

東京五輪スケートボード女子パーク銀メダルの開心那は「ライバルじゃなくて、友だち」と言った。選手同士のそんな関係性は当たり前。国ではなく、個人として強い絆がある。互いに「リスペクト」している。

日本サッカー協会とJリーグは08年に「リスペクト宣言」をした。その際「リスペクト」の意味を子どもたちにも伝わりやすように「大切に思うこと」とした。素晴らしい訳だと思う。相手を、審判を、指導者を、選手を「大切に思う」からこそスポーツは成り立つ。

16年リオデジャネイロ五輪の体操男子個人総合は、内村航平が僅差で逆転優勝した。会見で、記者が内村に「点が出過ぎでは」という質問をすると、2位のベルニャエフが内村のマイクを手に取って「無駄な質問だ。彼はいつも素晴らしい体操をする」と怒った。尊敬し、大切に思うからこその行為だった。

そのベルニャエフの母国、ウクライナがロシアに侵攻された。ベルニャエフはもちろん、他の多くのウクライナ選手がSNSで声をあげた。他国のライバルはもちろん、ロシア国内からもSNSを通じて声があがった。

スポーツだけでなく、この地球上で人々が平和に暮らすために最も必要なのが、互いに「大切に思うこと」だ。相手を認めて、思いやり、行動すること。プーチン大統領の暴挙に「リスペクト」はない。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/記者コラム「OGGIのOh! Olympic」)