日本スケート連盟の公式サイト内に「地方競技会」というページがある。

47都道府県ごとに開催予定となっているフィギュアスケートの競技会、その結果が確認できる。

7月31日、京都で「西日本中小学生フィギュアスケート競技会」が行われていた。前日30日に大阪で全日本ジュニア合宿を取材した関西出張の帰り道、宇治市の木下アカデミー京都アイスアリーナに立ち寄った。

2017年に正式にフィギュアスケート担当となって以降、時間が許す限り「地方競技会」に足を運んできた。例年12月に行われる全日本選手権や、トップ選手が出場するグランプリ(GP)シリーズ、そして五輪や世界選手権…。それらの取材がシーズンを通して主となるが、地方競技会にも発見や学びが多くある。

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西日本中小学生競技会で8・7級ジュニア女子6位となった加生捺乃(撮影・松本航)
西日本中小学生競技会で8・7級ジュニア女子6位となった加生捺乃(撮影・松本航)

西日本中小学生競技会では、気になった数人の選手に話を聞くことができた。その1人が8・7級ジュニア女子に出場した加生捺乃(かしょう・なつの)。中学3年生の14歳は「大分ゴールドFSC」に所属する。普段、大分の選手を取材する機会は、あまりない。

2種類の3回転ジャンプを組み込んだフリーを終え、加生は「悪い癖をなおさないといけない」と3回転サルコーの転倒に渋い表情だった。大分に通年で営業しているリンクはなく、普段から福岡・久留米市まで片道3時間半をかけて練習に通っているという。

スケートを始めたのは小学1年生の夏。ちょうど8年前の2014年は、ソチ五輪シーズンだった。

「オリンピックで浅田真央選手を見て『トリプルアクセルを跳びたい!』と思いました。それでスケートを始めました」

あれから8年。決して恵まれている環境とはいえない中でも、氷に立ち続けてきた。原動力を明かした。

「大変だし、きついけれど『言ったことは達成したい!』と思って練習しています」

西日本中小学生競技会で8・7級ジュニア女子4位となった高橋萌音(撮影・松本航)
西日本中小学生競技会で8・7級ジュニア女子4位となった高橋萌音(撮影・松本航)

取材を終えてリンクに戻ると、加生と同学年の高橋萌音(もね、15=神戸クラブ)が氷上に立っていた。

見守るグレアム充子コーチは演技直前も高橋の肩に手をやり、ジャンプ時の意識付けをしていた。同コーチは中野園子コーチとともに世界女王の坂本花織(22)、4大陸女王の三原舞依(22=ともにシスメックス)らを指導している。それぞれの選手の目線に合わせ、勝負の場に送り出す。そんな一面を見た気がした。

演技を終えた高橋は少し悔しそうな表情だった。3回転のルッツやループで転倒。川原星コーチが振り付けた「ラ・バヤデール」で、従来とはひと味違った世界観を表現した。それでも同じチームの大先輩を例えに出して課題を分析した。

「坂本選手は自分を操れる、強い精神力があります。見えないところで努力している。練習の時からきちんと自分に負けず、厳しいことをやっています。私も今やれることを、ちゃんとやらないといけないです」

通り掛かったグレアムコーチが「(今後が)楽しみね」とほほえんでいた。5分ほどの取材だったが、自分に厳しい高橋の性格、そして坂本の日常の姿をあらためて知ることができた。

西日本中小学生競技会で6級ジュニア女子2位となった柚木心春(撮影・松本航)
西日本中小学生競技会で6級ジュニア女子2位となった柚木心春(撮影・松本航)

2人の1学年下にあたる中学2年生の柚木心春(ゆのき・こはる、13=京都宇治FSC)は6級ジュニア女子で2位に入った。ペアに取り組む心結(みゆ)の妹にあたる柚木は、6月に行われた三笠宮杯でアイスダンスに挑戦していた。正式結成したカップルではないが「2人で滑ることに興味があります。スケーティングを磨きたい思いもありました」と明かしていた。

シングルでは1種類目の3回転ジャンプとなるサルコーに挑戦中。この日は回転不足の判定を受けたが、春の故障から徐々に復調しており「西日本選手権に出られたらうれしいです」と目標を設定した。全日本ジュニア選手権の予選会に位置付けられる西日本選手権出場のためには、近畿選手権を上位で突破する必要がある。柚木にとっては、約2カ月後の近畿選手権が重要な「勝負の場」となる。

西日本中小学生競技会でノービスA男子を制し、北川奨励杯を受け取った高橋星名(撮影・松本航)
西日本中小学生競技会でノービスA男子を制し、北川奨励杯を受け取った高橋星名(撮影・松本航)

さまざまな思いや目標を持ち「地方競技会」に臨んだ選手を取材し、午後5時半ごろから表彰式を見た。京都府連盟のスタッフ、選手の保護者に囲まれた小さな式の最後には「北川奨励杯」の授与式が行われた。

この大会を創設した北川重蔵氏の遺志により「将来有望な才能あるスケーター」に贈られる賞。今回はノービスA男子を制した中学1年生の高橋星名(せな、12=木下アカデミー)が受け取った。授与式後には大会パンフレットにある、過去の受賞者一覧を眺めた。

小塚崇彦、田中刑事、宮原知子、本田真凜、紀平梨花…。

そこにはこの大会から世界へ羽ばたいた選手の名が並んでいた。笑顔を見せた高橋が堂々と言い切った。

「将来は国内、国外に関係なく、試合で活躍したいです」

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日本スケート連盟の公式サイト内に「国内大会」というページがある。9月22日の関東選手権を皮切りに「東北・北海道」「関東」「東京」「中部」「近畿」「中四国九州」の6地域で「ブロック大会」と呼ばれる競技会が行われ、上位選手がノービスは「全日本ノービス選手権」、ジュニア以上は「東日本選手権」「西日本選手権」へと進む。例年、地上波で生中継されている「全日本選手権」は、その先に待つ国内最高峰の舞台だ。

地方競技会で経験を積んだ次世代の有望株、自らの目標へ努力を続ける選手らが入り交じり、練習の成果を数分の演技に注ぎ込む。

大会ごとに成長が見える、楽しみな季節はまもなくやってくる。【松本航】


◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは五輪競技やラグビーを中心に取材。21年11月からは東京本社を拠点に活動。18年平昌、22年北京五輪と2大会連続でフィギュアスケート、ショートトラックを担当。19年はラグビーW杯日本大会、21年の東京五輪は札幌開催だったマラソンや競歩などを取材。