バトンを手に笑顔を見せる、左から奥野由萌、岡根和奏、蔵重みう
バトンを手に笑顔を見せる、左から奥野由萌、岡根和奏、蔵重みう

陸上の日本学生対校選手権(日本インカレ)で、昨年女子400メートルリレーを制した甲南大女子陸上競技部がこのほど、兵庫・神戸市内で取材に応じた。同種目メンバーの蔵重みう(1年)、岡根和奏(2年)、井戸アビゲイル風果(4年)、奥野由萌(2年)に加え、昨年2月の故障から復活を目指す21年東京五輪代表の青山華依(3年)が登場。個人種目でも表彰台を席巻する同大学の強みを思案し、昨季を超える記録の樹立へ意欲を示した。


甲南大の練習風景
甲南大の練習風景

日本インカレ女子400Mリレー初優勝!女子100メートルも表彰台独占


2月下旬、甲南大六甲アイランド体育施設(神戸市東灘区)。冷たい雨が降る中、昨秋の日本インカレをにぎわせた甲南大女子陸上競技部員は笑顔で練習に励んでいた。同選手権女子400メートルリレーで初優勝を飾れば、女子100メートルでも優勝の蔵重に岡根と奥野が続き、表彰台を独占。


昨夏のアジア選手権でも400メートルリレー銀メダルに貢献した蔵重は「競技レベルの高い選手の中で練習できたことで新しいレース展開を身につけられた。1つ上の国際大会への出場ができたところを見るとかなり成長できた1年だった」。


昨年の日本学生個人選手権女子100メートルでも3位の岡根は「今まで全国の決勝の舞台であまり戦うことができてなかったけど、昨シーズンは決勝で戦えることが多くて新しいことにたくさん挑戦できた」。


昨季自己ベストを4回更新して100メートル11秒58の記録を持つ奥野は「大きな大会に出て、憧れていた選手とも一緒に走れて、収穫がたくさんあった」と、おのおの23年シーズンを振り返った。


甲南大の練習風景
甲南大の練習風景

強みは練習環境 男子100M元日本記録保持者伊東浩司氏が指導


スプリント界をけん引する1&2年生トリオ。しっかり者の岡根、ムードメーカーの奥野、頭脳明晰(めいせき)の蔵重と個性の光る3人が甲南大の強みに挙げたのは練習環境だった。

男子100メートル元日本記録保持者の伊東浩司氏から指導を受ける同部。全国トップクラスの選手が集まっており、普段から自己記録が近い選手との勝負を経験できる。蔵重は「レース形式での練習は日によって誰が1番になるか分からない」と練習から本番さながらのレースを味わえる点を挙げ、岡根はその上で「分からないことや不安なことがあれば後輩にも聞ける。変なプライドを持たずに学ぶ姿勢をみんなが持っているのは大きい」と付け加えた。


甲南大の練習風景
甲南大の練習風景

一方、奥野は「メリハリ」を挙げ「みんな意識してるのか分からないけど、そういう(真剣な)雰囲気になる」と言う。いつも練習前にはおしゃべりをしたり、音楽に合わせて体を揺らしたりと和やかな空気が流れるが、ある瞬間空気が一変し、全員黙々と練習する。中でも「(青山)華依さんはすごくうまい」と先輩を仰ぎ見た。


約3時間練習した後も、グラウンドからは笑い声があふれていた。岡根は「大会でも日本一をとらせてもらったけど、おしゃれも、仲の良さも、メリハリも日本一だと思ってます」とにっこり。ストイックな部分と、学生らしく競技を楽しむ部分を同居させる甲南大女子陸上競技部は、個性全開で日本の頂点を目指す。【竹本穂乃加】


甲南大の練習風景
甲南大の練習風景

笑顔で写真に納まる甲南大の青山華依
笑顔で写真に納まる甲南大の青山華依

完全復活を目指す青山「パリ五輪目指したい」


故障からの完全復活を目指す青山の視界には、今夏のパリ五輪がある。「選考会までにできることをすべてやってパリを目指したい」。鮮やかなピンク髪を揺らしながら、決意を表した。


昨年2月に左膝の前十字靱帯(じんたい)を断裂。同3月の手術後は歩くこともできない状態が1カ月間続いた。リハビリを経て同6月にジョギングを開始し、秋以降にはスパイクを履き始めた練習を再開できるまでに復調したが、昨季出場した試合は同11月のエコパトラックゲームズ1試合にとどまった。


けがはいまだ完治していない。跳ぶ動作に制限がかけられているため、全体練習を通しで参加することはできない。それでも徐々に回復傾向にあり「別の練習をしていても話しかけに来てくれたり、一緒にリハビリメニューをしてくれたり、チームメートが心の支えだった」と仲間に感謝。


また、今春卒業する井戸に対しては「寂しいしこのままここで練習していただきたいけど、試合でまた会えるぞと思いながら頑張りたい」と熱い思いを明かした。


21年東京五輪女子400メートルリレー代表。パリ切符をつかめば、大学4年間で2度五輪の舞台に立つ快挙となる。「学生のうちに2つ出られたらすごいじゃないですか。できればっていうか、すごい出たいですね」。大舞台への思いがあふれる21歳は、リハビリ期間にウエートトレーニングで約2キロ増やした筋肉を武器に、大けがからの巻き返しを図る。



笑顔で写真に納まる井戸アビゲイル風果
笑顔で写真に納まる井戸アビゲイル風果

今年3月卒業の井戸「世界の舞台に立ちたい」


今年3月に卒業する井戸は「いろんなことを吸収できた。甲南大学で陸上をできて良かった」と大学4年間を振り返る。岐阜・美濃加茂西中から愛知・至学館高を経て、コロナ禍の20年に同大学に入学。入部当初は全体練習を行えず思い悩む時期もあったが、自ら考え、前向きに動けるようになった3年目からは成績も向上。特に「昨シーズンはいい形で終われて、4年間を通して一番良い年でした」と笑みをたたえた。


努力は自らの未来を変えた。入学当初は大学で競技をやめようと考えていたが、卒業後は福島・東邦銀行で陸上を継続することが決まっている。


成績が向上するたびに「もうちょっと頑張ってみようかな」という思いが膨らみ、高校時代に参加したリレープロジェクトでコーチだった吉田真希子監督を求め、自ら「東邦銀行で練習したい」と志願。現在の拠点とも故郷とも離れた東北へ移るが「あんまり地域とかは考えないタイプ。誰としたいか、どの環境でしたいかだけで選びました」と強い意思を示した。


目指すは世界。「200メートルで世界の舞台に立ちたいというのが最終目標。これから経験を積んでいきたい」と夢を描く。



笑顔でポーズを決める甲南大陸上競技部の選手たち
笑顔でポーズを決める甲南大陸上競技部の選手たち

古いしきたりなくし自主性と個性尊重 走りにも「らしさ」


甲南大女子陸上競技部には、古くからのしきたりを取っ払った、自主性と個性を尊重する風土がある。外見の規則はなく、体育会系では珍しく金やピンクなどの明るい髪色の選手が目立ち、耳元にはピアスが光る。


伊東氏が甲南大の専任講師として着任した01年当時は女子部員5人で女子更衣室すらなかったが、今では「美」も追い求められる場所になった。井戸は同部の風土について「みんな同じ走りをしてるわけじゃない。体形も癖も全部違うので、髪形を自由にしたりすることでその人の色が出て、走りにも『らしさ』が出せるようになると思う」と競技との関連性を分析。練習での自主性が重んじられる面についても「実業団に入っても役に立つと思う」とした。


甲南大の伊東浩司顧問
甲南大の伊東浩司顧問

甲南大女子陸上競技部メンバー
甲南大女子陸上競技部メンバー

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【提供】甲南大学