「山本家の最終兵器」が五輪物語を完結させる。レスリング元世界女王の山本美憂の長男で、13年世界カデット(16、17歳)選手権覇者のアーセン(18=GSA)が23日、16年リオデジャネイロ五輪での金メダルを誓った。全日本ジュニア選手権(25、26日・横浜文化体育館)出場のため拠点のハンガリーから帰国し、都内で会見。72年ミュンヘン五輪7位の祖父郁栄さん、母、叔父“KID”徳郁、叔母聖子さんが届かなかった悲願の金メダルへ「優勝以外は目指していない」と言い放った。

 日本のレスリング史に深く、長く名を刻む山本家。その誇りを問われたアーセンは「それはおじいちゃんに聞いていただければ、じっくり言ってもらえると思うんで」とちょっと照れた。ただ、血筋の宿命は分かっている。祖父郁栄さんが72年五輪で敗れた「ミュンヘンの悲劇」から始まった歴史を歓喜で締めくくる。

 「優勝以外は目指してない。(国内の代表争いも)負ける気はしない。絶対に勝ってやる」

 16年リオデジャネイロ五輪。44年がかりの頂点へ、淡々と話しながら、静かな自信がみなぎっていた。

 17歳で世界選手権最年少優勝した母美憂と、元Jリーガーの父池田伸康氏との間に生を受けた。4歳からレスリングを始め、小学生時代は敵なし。中1で全国中学選手権で3位となった直後、山本家の血がうずく。「おじいちゃんのグレコをやりたい」。フリースタイルからグレコローマンに転向を決意した。相談を受けた母が、日本協会の福田会長に相談した結果、13歳でハンガリーへ留学することが決まった。

 それから5年。今では12年ロンドン五輪銀メダルのタマシュ(ハンガリー)の練習パートナーを務めるまでに成長。その素質に母は「いつも最初から最後まで気持ちを前面に押し出して攻める良い選手。一選手として尊敬してます」。祖父は「山本ファミリーは40年以上ずっと歴史がある。世界の頂点に立つ」と期待した。

 何かと話題が豊富な山本家だが、最近ではダルビッシュと交際中の聖子さんが妊娠した。ただ、ハンガリーで競技に打ち込んでいたアーセンは寝耳に水。「『え、付き合ってたの』って感じ。フェイスブックで知った。幸せならそれでいいです」と祝福した。今度、家族に幸せを届けるのは自分。好きな言葉は「栄光に近道なし」だという。ハンガリーは確かに近くはない。その先に栄光があると信じて疑わない。【阿部健吾】

 ◆グレコローマンスタイルの日本人五輪金メダリスト 64年東京の市口政光と花原勉、68年メキシコシティーの宗村宗二、84年ロサンゼルスの宮原厚次の4人。下半身も対象のフリーと違い、上半身だけで争うグレコローマンでは苦戦が続く。

<山本アーセン アラカルト>

 ◆生まれ 1996年(平8)9月8日、神奈川県生まれ。出生名は池田怜。母が格闘家のエンセン井上と再婚後に、アーセンに改名。

 ◆サイズ 身長169センチ。五輪で狙う階級はグレコローマン66キロ級。

 ◆競技歴 4歳から。全国少年少女大会では5度優勝。13歳でハンガリーへ。ブダペストのバビロン高に通学し、練習に励む。年に2度開催されるハンガリーの国内選手権では10年から無敗。13年世界カデット選手権優勝後、腰のケガを負ったが、現在は回復。

 ◆赤 髪には赤いメッシュ。「好きなんです。炎だし燃える」と、ここ数年の大事な試合前に染めるのが定番に。

 ◆音楽 TERRY THE AKI-06のファン。「栄光に近道なし」もその人の言葉から。

 ◆所属 GSA=GENスポーツアカデミー(東京都新宿区)。4月に立ち上がった体操や格闘教室などを行うアカデミー。郁栄さんがレスリング部の総監督を務める。