女子レスリングの吉田沙保里(34)が、至学館大(旧中京女大)の副学長に就任した。創立111周年の母校で11月1日午前11時1分に辞令を交付された。今後は学生へのアドバイスを中心に広報、渉外担当として、3人目の副学長として職務に当たる。現役選手、日本代表女子コーチ、そして副学長の3役を担い、20年東京五輪へ向かっていく。

 至学館大にとって記念すべき日になった。谷岡郁子学長(62)は会見で「創立111周年を迎えた本学で、11月1日午前11時1分に、吉田沙保里に副学長の辞令を交付しました」と言い、満面の笑みをたたえた。

 9月に栄監督を通じて谷岡学長のラブコールを受けた吉田は、母幸代さんを交えて学長と話し合った。「最初に聞いた時は『えっ』とびっくりしました。沙保里でいいのかな。私が副学長、大丈夫かなと」。少し悩んだが、この日は晴れやかな表情だった。

 吉田 生徒や選手たちに自分が学んだことを伝えていけるいいチャンスかな。所属なしもあれですし…、収まった方がいいのかなと。恩返ししたいという意味もあります。

 昨年末にALSOKを退社してフリーとなったが、今後は至学館大職員という立ち位置ができた。現役選手でもあり、すでに日本代表女子コーチ兼任も決まっている。さらに副学長と役目が増えるが吉田は「1つ1つこなしていけば。何が大事か考えていきたい」と、慎重に頭を整理した。

 対照的に爆笑を誘ったのが栄監督。「教え子が私を超えていく。副学長になることで、沙保里を何と呼べばいいのか。戸惑っている。複雑な思いがあります。なぜ、私はみんなから置いていかれるんだろう」と、うれしそうにぼやく。「まあ、冗談ですが」と加えたが、本音にも思える言葉で笑いを添えた。

 14連覇がかかる来年の世界選手権(パリ)は「全く考えていない」が、吉田の視界の先には東京五輪がある。リオ五輪決勝で敗れ4連覇を逃したが「もちろん出たい気持ちはあります。後輩と練習してみて、できると思えば大学の名前で出場すると思いますし、若い者が強いと思えば出ないかもしれません。そこは分かりません」。役目も立場も広がるが、吉田が周囲から期待される環境だけは、当分変わらない。【井上真】

 ◆吉田沙保里(よしだ・さおり)1982年(昭57)10月5日、三重県津市生まれ。3歳の時に、父の指導でレスリングを始める。久居高-中京女大、ALSOK。04年アテネから12年ロンドン五輪まで女子55キロ級3連覇。16年リオ五輪決勝でマルーリス(米国)に1-4で敗れた。連勝は206試合でストップ。12年11月に国民栄誉賞を受賞。157センチ。

 ◆至学館大 前身は1905年(明38)に創立された中京裁縫女学校。1979年(昭54)に学校法人中京女子大学と法人名を変更し、さらに2010年(平22)に現在の学校法人至学館と変更される。同時に男女共学化になる。教育理念は人間力の形成。大学は3学部で在学生は約1300人。短大は同330人。愛知県大府市。

 ◆複数肩書選手 04年アテネ五輪アーチェリー銀メダルの山本博は当時、埼玉・大宮開成高教員。「山本先生」として話題になった。現在は日体大教授で現役選手。埼玉県庁に所属するマラソンの川内優輝は公務員ランナーとして有名。また今年の日本選手権で現役を引退した競泳北島康介氏は現役時代にマネジメント会社の社長を務めながら選手生活を送っていた。今年引退を表明した陸上の室伏広治も14年に東京医科歯科大の教授に就任しながら現役生活を送ってきた。