6回目の出場となった百瀬優(27=旭化成)が、最後の大会で輝いた。3回戦でリオデジャネイロ五輪銀メダルの原沢久喜(24)に一本勝ち。相手の内股を崩して寝技に持ち込み、送り襟締め、わずか38秒で完勝した。「原沢とやれれば、思い出になると思った」というベテランが、巧みな技でスタンドを沸かした。

 長野県塩尻市出身。東京の国士舘高-国士舘大を経て、12年に旭化成に入社した。その年の全日本で3位に入り、その後の国際大会でも優勝するなど重量級の強豪として活躍したが、今年1月からは旭化成のコーチ専任に。全日本柔道連盟男子強化部長に就任した中村兼三監督が不在なことが多く、代わりの仕事に追われたこともあって「この半年間は、まったく練習していなかった」と笑った。

 「最後の大会」と決めて臨んだ全日本九州予選で3位になり「おまけのような全日本出場」を決めた。この日の大会プログラムには「本大会で引退します。家族、両親に感謝の気持ちを持ち、畳に上がります」と書いた。朝、最後の全日本の畳に上がった時は「ウルっときた」。3試合を勝ち進み、準々決勝では12年の準決勝でも負けた加藤博剛に敗れたが、無欲で臨んだ大会で5位。「それが良かったのかも」と話した。

 「高校、大学と本当に厳しくて…。でも、それがあったから今がある」と、3歳から始めて25年になる柔道人生を振り返った。快進撃にも色気は見せず「もう全日本に出ることもない。これからは、コーチ業に専念します」と話した。

 閉会式終了後、誰もいなくなった畳の上に宮崎から呼び寄せた家族を上げ、1歳半の娘を抱いて写真を撮った。もう柔道家として戦うことはない舞台。186センチ、125キロの体からにじみ出たのは、優(まさる)の名前の通り父親の優しさだった。